ことばとこたまてばこ
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2007年03月11日(日) 父の火種は未だ続いてる

雨夜を立ちのぼる白骨色の父の煙を見るに耐えず
つい眼を伏せてしまったその瞬間、突然に絶叫が響いた
それはじつは私自身の悲痛な絶叫だった
父、父、どこへゆく! 父よ、父!
濡れ羽色も鮮やかな黒犬もまたうぁんうぉんとむせび泣く
私の子供が雨でしとどに濡れる棺桶に触れた
死せり老人と生きし若人 なんという生死の対比

帰宅して薄暗く残り香未だ濃い父の部屋に立ち入る
すると奥の部屋に通じる襖が細く開いていた
窓から差し込むおぼろな街灯に照らされて座椅子に腰を落ち着けている猿がいた
私と子供は驚いた
やがて猿はしみじみと歌らしきものを唄い始めた
鋭い牙に歯茎を剥き出しにして唄うその歌には怒りも悲しみもなく
ただ ただ 闇に近い深く濃い緑色のみを思わせた
しばらくして唄い終わった猿は青いびい玉に似る眼を私へ向けた
「ところがまだまだ死ねません」
猿はそう言って湯呑みをいたわるようにそうっと両手で持ちながら
湯気立ちのぼる熱いこぶ茶を飲み干した
やがて呆然自失の私の傍らで子供がけらけらけらと笑い出して


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