ことばとこたまてばこ
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曼珠沙華の咲き乱れるニッポンの片隅でおれとおめえは凶暴な野犬と見つめ合った 犬が野蛮に吠えて歯をがっちゃがちゃらと鳴らせて虚空に噛みつきおれとおめえのふたりを威嚇していた 足がすくんでしまってまるで動けなかったおれはついついあの鋭い牙で噛み砕かれた黄色い頭蓋骨がぬらりと牙に貼り付く様を想った おめえの横顔へ素早く眼を走らせると、おめえは眼を大きく見張って薄く微笑んでたぜ でもおれもきっとおめえと同じ様に口角ひらりと持ち上げて微笑んでた ゆるやかな表情はある役目を果たすのだ、安心、安堵、安寧それは夢うつつへ潜り込む表情
しかしそれにしても歯を剥き白い泡混じりの涎を滴らせて唸る野犬は 単なる狂犬と呼ぶには何かためらわされる深い眼をしていた
眼は閉じた方が良い、とふと思った おれとおめえと犬の3人の眼ですべては一点に戻っている、と思った 眼でなにもかもがごまかされきっている、と思った
つむった瞼に広がるのは暗黒のそれだけ
ぎぎり ぎり ぎりぎりぎり 雨が吹く 霧がけぶる 喉が裂かれる 曼珠沙華の色がより映えて
痛い 痛い 痛い 痛い 痛い 痛い 痛い 痛い 痛い 痛い
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