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お気に入りの絵サイトさんを回っていたら、痣のある女の子の絵に出会った。 怪我が痛々しい彼女だが、傷を取り巻く痣の色が どこか懐かしかった。 ここで言う痣は生まれ付きの物ではなく、どこかにぶつけて出来る、 打ち身の痣と言うやつだ。 子供の頃は年寄りと暮らしていたせいか、ちょっとした怪我なんかは自家製の 薬で治療されていた。 傷なら自家製ではないが、バリバリの赤チンだ。あの、光の加減で妙な色の 浮くやつ、水銀がどうとかで使用禁止になった様だが、何にでも塗っていた。 そして打ち身には栃の実をアルコールに漬けた物をぐりぐりと塗られていた。 栃は食用にもなり、現在では栃餅とか栃の実コーヒーとか口に入れる方で 知られている様だが、昔は民間薬として普通に一家に一瓶 貯蔵してあった。 「血を散らせてくれる」 と言う効果がある、この薬の元となる栃の実取りを 何度も手伝った事があるのは憶えているが、栃の実がどう言う実だったかは 今は憶えていない。近所にあっても多分判らない。
子供の頃は、痣が出来るほど酷くぶつけても「いたい」 と言った次の瞬間には 遊んでいるので「どこでぶつけたの」と言われても、さっぱり判らなかった。 少し大人になると「ああ、今のは確実にぶし色(打撲の色、ぶす色とも言うらしい ですね)になったな〜」 と判るようになる。 ぶつかって直ぐには変色しないが、しばらくすると青くなり、やがて赤味を帯び、 微妙に明度と彩度を落としながら 実にゆっくりと時間をかけて消えて行く。 その状態や程度によって、赤タンとか青タンとか呼ばれている。 だが打撲には更に上位打撲があるのである。 それは黒タンだ。
初めて黒タンが出来た時、私は何故にそこがそれほど痛むのか、さっぱり判らなかった。 確かに暴力を受けたのは間違いないのだが、見た目は全然、何とも無いのである。 感覚が少し鈍くなっているが、それだけ。でも、猛烈に痛いのだ。 じっとしていても痛い。 一晩経って驚いた。そこが真っ黒に変化していたからだ。「どおおおっ」 黒い、見事なまでに黒いし、他の打撲と違うのは 少しだが盛り上がっている。 触ると感覚は殆どない。 「・・・・・・」 撲殺死体が真っ黒であると言うのは聞いた事があったので、つまりはこう言う 事なのねと、その時は妙にすんなり納得した。 他にも怪我をしていたので、病院に行ったついでに「痣を診て下さい」と 包帯を取ったら、お医者さんが「どおおおっ」 と言ったのが 印象的だった。 色々訊かれたが、黙って湿布を貰って帰る。痣は2週間も消えなかった。 結果的に、私は4回 黒タンが出来た。何事にも慣れと言う物はあるもので 仕舞いには「これは黒タン」と 色が変わる前から判るようになった。 的中率は100%だ。だって痛いんだもん。
黒タンの法則では無いが、やたらとぶつければ出来る物でもないと思うので こうやったら出来るかもと言う全く要らない事をここに書いておこう。 まず筋肉の上である事、いや、大体どこでも筋肉の上だけど。 力こぶとか出来るとこ、あそこの打撲はえらい事になりやすいみたいです。 それと、ある程度柔らかい物に、均一の重量をかけられ 広範囲に渡って ぶつかった時になりやすい事。つまり人体からの素手による攻撃だ。 ボクサーとかも これで行くと黒タンだらけと言う事になるかも知れない。 (素手じゃないけど) 試合の翌日とか、きっと真っ黒なんじゃないだろうか・・・。
暴力には慣れが生じる事がある。これはとっても危険な事だ。 振るう方も慣れるが、振るわれる方に慣れが生じた時は 特に危険だ。 「愛しているから殴るんだ」 と言う小説や漫画の登場人物をみて「・・・殴られたい」と思ってしまう 人がいれば、それは真性の何かなのかも知れないが、大抵は違うはずだ。 どこがどう違うのか 何かで判らなくなってしまっているだけだったりする物だ。
子供の青タンは成長の証だ。この痣の色は綺麗だ。 だが暴力で出来た黒タンは その色の未来があるだけだ。半端な力では黒タンには ならないからだ。愛情はもちろん、義理人情のあるやつは そこまでしない。
ちょっとお馬鹿な昔話を披露してみたが、もしかしたら「黒タンの治し方」で 検索に引っかかるかも知れないし、そうしたらここを見た人に黒タンからは 遠ざかった方が ずっとましだと伝えたい。 職業でそうなっている人は別だが。
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