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子守唄も聴かずに自分で歌い、お話を読めばストーリーと全く違う事を 訊いてばかりいた息子が、最近ようやく 寝る前に物語をせがみ始めた。 遅い。もう6歳。数ヶ月前から一人部屋で勝手に寝ている。 寝る前のお話なんか、照れくさくて嫌になって来る年齢ではないんだろうか。 でもまあ、とにかく、聞きたいと言う。 学校の読み聞かせとかが関係しているのかも知れないな。
始めの話は「幸福の王子」 実は私は ハッピーエンドが嫌い。子供の頃からそう。 好きな物語は「赤いろうそくと人魚」「ごんぎつね」「小鹿物語」など。 「フランダースの犬」とか。何だかトラウマコレクションみたいである。
「楽しい話と、悲しい話、どっちをして欲しい?」 「幸せの王子」の次の話を決める時、一応息子に聞いてみた。 もし「楽しい話」と答えたら「豆の口は何故黒いか」と言う話をしてやる つもりだった。これまで聞いた昔話の中で 馬鹿馬鹿しさでは群を抜いている お気に入りの話だ。 息子は「悲しい話」と答えた。 そうか。 「じゃあ人魚姫の話を」 もちろん、海の泡バージョンである。
話は5夜に分けてする。今日はいよいよ銀のナイフのところまで話した。 「王子を刺せば、人魚に戻ってお姉さんやお父さん達と幸せに暮らせる。 もし刺せなければ 海の泡になって消える」 残りは明日のお楽しみだ。 ここで質問コーナーを設けてみる。 「Rちゃんが人魚姫だったら、どうする?」 息子は少し考えて答える。 「王子様が、今日帰りに、みんなで木で刺したナメクジだとして」 おいおい、「だとして」じゃないだろう。 「お姫様は お喋り出来なくなっても一緒に居たいくらい 王子様が好きだった んだよね」 ナメクジと一緒にすんな。それとナメクジを苛めるな。
「じゃ、先の尖った所でちょっとだけ ちくっとする」 「駄目、ぐっさり刺さないと」 「じゃ、平べったい所で」 「ぺんぺんってするのね? 駄目、ぐっさり刺さないと」 ひどい事を言っているようだが、いや、言っているのだが 私の時は一回で ぐっさり刺すんだなって判ったもんね。想像力ないな、息子よ。
「じゃあ人魚姫がRちゃん、王子様がお母さんで考えたら」 ・・・いいじゃないかっ今しかこんなお馬鹿な例え話は出来ないんだしっ 「Rちゃんは消える」 無表情な顔で言う息子。 「お母さんが死んだら嫌だから、Rちゃんは消える」 泣) 「そうか Rちゃんならそうするの、人魚姫はどうするのかは明日のお楽しみ」 言いながら涙声。 「お母さん、のど渇いた。ポカリスエット(好物)飲みたい」 「はい、今持って来る。特別だよ」
「やられたね」 と母は言う。やっぱりそうかね。 まあ、本心もあるけど、計算もゼロではないだろうな〜。一応6歳だもんねえ。 いつもベッドに入ってから飲み物を飲みたがるのだが、階下で飲ませて、 それ以降は禁止しているんだよね。 まあいい、詰まらない例えで迫った こっちも悪い。
ナメクジ話との落差が激しいが、とにかく消える気分には ちょっとは なったかも知れない息子。 これが肝心と 私は思わないでもない。悲劇にはどこか痛みに対する 想像力を豊かにさせる何かがあると感じる。 賛否はもちろん、あるでしょうが。
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