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少し前から、部屋にやや大きめの絵を飾った。 藤城清治と言う名前に心当たりがなくとも、その絵を見れば ある年齢以上の方はピンと来るのではないかと思う。
私の子供の頃であるので相当昔だが、教材か何かのCFにこの人の絵が 使われていたのである。 独特のファンタジーを描く人で、かなりの高齢だが存命である。
この人の描いた馬の絵を母が買って来た。
「あんた馬好きだから」
実は藤城清治の出物があったら買って来ておいてと頼んでいたのだった。 馬が海から次々飛び出して来る。彼らは森へ向かっている。 海に夕日が沈んで行く。陽光が木々枝から透き通るように抜けている。 美しい絵だ。
馬は夜の森へ向かっている。 夜の森と言う題材も、この人が好んで描く題材で、そこは色取り取りの 光に溢れ、昼間のように明るいのだった。
だが馬たちは夜の森へまだ到着していない。森の中は明るい光に満たされ 不思議な生き物が沢山いるのだろうが、遠くに見ると暗い。 馬たちが向かう森は少なくともこの絵の中では 暗い。
インド製だと言うド派手な虹色のショールを買って来て絵の森の部分に 掛けてみた。全てが台無し。
「いやあ、風水的に縁起の良い色を集めてみました」
と言っては見たものの、息子でさえ「何でかけたの?ねえ何でかけたの??」 と、しつこく聞いて来る。気に食わないらしい。
行く先が暗いのが、何だかイヤなんだ、お母さんは。 森を虹色にすれば、悪くなりそうな事も良くなるかと思って。 少なくとも悪くなった時、暗い森のせいにしなくても良いかと思ってさ。 踏ん張れるんじゃないかと、思ってさ。
虹のショールはずっと掛ったまま。絵は台無し。 悪い事は悪いまま。終わるものは終わり、新しく始まるものも 虹色の世界であるなんて言う保障は どこにもない。
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