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極度の汗かきで汗も体質の息子。 (私は代謝が悪く、ほとんど汗をかかない。汗もと言うものも知らない) 寝る前に、ひどい時には薬を塗ってやるが、先日 真っ裸で広い背中を こっちへ向けていた。 ぬりぬりと薬を塗っていると、もっと下の方も塗って欲しいのか ひょいと腰を浮かした。 眼前に息子の肛門が。そしてそれに繋がる他の物も。 暑いからか息子は全裸であり、暑いからか私もそれに気が付かなかった。
ばっしいいいぃ〜〜〜んっ
と私は反射的に勢い良く尻を叩いた。
「痛いっ!何すんの!」
「あんたねえ、いい加減にしなさいよっ!人様にお尻の穴を・・・ 少しは恥ずかしいとか、ええい腹が立つ」
と言ってる間に、息子はベッタリと革のソファに開き気味の尻をおろした。
「きったないって言ってんでしょ〜がっそこ人が寝るんだよっ」
乱暴に転がり落としてやった。
別の日。
「お祖母ちゃん、お祖母ちゃんはお母さんや叔父ちゃんをお尻から 産んだの? それともお腹を切って産んだの?お腹切ったの? それともお尻なの? ねえ、お尻なの?お腹なの?お尻なの?」
「お腹だ」と祖母。
「あれえ? 私って帝王切開で生まれて来たんだっけ?弟(仮名)もだっけ?」 と 何とはなしに呟く私を、台所から凄まじい形相をした祖母が呼んでいる。
「あんたはっ!せっかくお腹って事にしておけば、お母さんと同じだねで それで済むのに。 いいかい?性教育はあんたがやるんだからねっ」
どうも、時々発作的にではあるが『お尻ではない筈だ、そんな気がする』 と言う疑問に取り付かれる様子。 昔の筒井康隆の短編小説で「真ん中の穴だ!」と言う個人的に大変好きな ネタがあったのだが、今はまだそう言う時期ではない。
「お尻なのかなあ〜、ウンチと一緒に産まれるの?本当に?」
「まあ、大体 大雑把に言うとそうだね」 と答えた。
多分 大雑把の意味が判らなかった息子は、そこで取り敢えず一旦黙った。
更に別の日。
息子の他愛のない嘘がばれた。 自分が言いたかった事を、「○○クンが言っていた」と他人にすげ替える 嘘の初歩みたいなやつである。 人間の発達成長としては正常だと思う。 だが、私は息子が嘘を吐く事には 何より厳しくしている。
少し前に祖母ちゃんが私を帝王切開で生んだと言う大嘘を吐いている話を 書いたばかりだが、息子の嘘にばかり厳しい。 肝心な時に嘘だけは吐かないで欲しいと言うこの気持ちをどう伝えたら 良いのだろうか。 嘘を吐く事に罪悪感を持たない人間の悲しさを どう伝えたら良いのだろう。
「嘘は吐かないで、本当の事を言いなさい。人が信じてくれなくなるのが 一番怖い事だから。 なりたい科学者にも、それじゃあなれない」
一通り叱られまくって親子喧嘩して双方ぐったりで話しかける。
嘘吐きは駄目、嘘吐きは何にもなれない。 その言葉の意味を知って、尚くだらない小嘘を弄して遊ぶ人間になるなら それもいい。いや、それがいい。判って欲しい。難しい。
子供を育てるのは、難しいなと毎日思う。
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