朝、目が覚めて、真っ先に思ったのは、やはり東京出向に対する返事をどうするかということだった。
昨日、方針を決めたのに、いざ期限当日になると、また「本当にそれでいいのか」という思いがよみがえってしまう。
単純にYESといったときの将来の自分を思い描いてみる。
東京での新生活。新しい仕事。新しい発見。新しい様々な出会い。 楽しいことが次々と思い浮かぶ。
しかし、次の瞬間には、新しい環境に適応するのに苦労していたり、難しい仕事と残業で苦しんでいる自分の姿を想像してしまう。
二つのイメージを行ったり来たり。 どうにも定まらない。
朝一番で部長室に入ろうと思ったのに、結局、ずるずると二時間くらいためらっていた。
いざ決心して部長に報告すると、部長はわりとあっさりと「まあわかった」と了解してくれた。
昨日決めたとおりに話したわけだが、どうにも最後まで自分の返事の正しさに自信が持てなかった。
部長室を出た後も、「これでよかったのか」という思いは離れなかった。
たぶん、自分は人生で重要な決定をしたのだ。 そんな実感はなかったけれど、多分そうなのだ。
部長が何やらおれとは別の課の課長に話をして、その後その課長が「名簿から外してうんぬん」ということを電話で誰かと話していたのをおれは聞いた。おれは東京出向の候補から外されたのだ。
この日は一日中、頭の中がぐにゃぐにゃと波打っているような感覚に襲われ続け、胃も痛くなり、仕事が手につかなかった。
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