| 2009年09月29日(火) |
高丘親王航海記 澁澤 龍彦 |
桓武天皇の孫で平城天皇の子どもである高丘親王が天竺を目指したことは有名だ。 父の平城天皇と藤原薬子のことも歴史の事実として有名だ。 そんな薬子の乱のあとで高丘親王が早々と身近にいた空海の影響もあって真如法親王として仏門に帰依していたことも。 あの時代 仏教を極めんとして唐に渡った僧は多いが、その先の天竺となると唐以上に未知の世界だったのだ。
それにしてもこの物語は不思議な小説だった。 幻想的な航海記のようでもあり、途中から気づいたことではあるけれどほとんどが親王の夢物語なのだった。 親王は船の上や南国の海辺でうつらうつらとまどろみながら、鳥のような女や蟻塚や蜜人など夢の世界で遊んでいた。 が その夢のなかにいつも薬子が混じりこんでくる。 夢にでてくる女は薬子の顔をしていたり、親王が子ども時代に耳元でささやかれた薬子の声となってくる。 薬子の存在は親王のなかでかなり大きな部分を占め、まるで旅に寄り添うようでもある。
旅の終わりで死期を悟った親王が、虎に食われて天竺を目指すところなど子ども時代に読んだ冒険物だった記憶が甦ってきた。
そして改めて感じることは 何年か後で読み返したいと思うような不思議な物語だということか。
|