読書記録

2010年03月22日(月) 橋            橋本 治



 母親の多くは、なんらかの形で夢を見ている。
夢を見ている母親の多くは、自分がどのような夢を見ているのかさえも、
理解していない。ただ時々、あらぬ方を見ている。
それは多く、「現実」という方向である。
「子供をちゃんと育て上げなければならない」という「現実」
「自分と夫の生活を、堅固に支え上げなければならない」という「現実」。それが「現実」であるがために、母親の多くは、それが「あらぬ方」であるなどとは思わない。
そして、その母親達に、彼女達の現実と、彼女達が「現実」と思うものの
間にあるずれを教えてくれる者はいない。
誰もが「あらぬ方」を見ている時、その「あらぬ方」はまぎれもなく「現実」になる。
そしてしかし、その母親達は、やはり「あらぬ方」をみているのである。

何か屁理屈をこねたような文章の続く物語だと思っていた。
そしてそこから生まれた作者の作り上げた二人の母親が主人公の物語なのだと思っていた。
ところが最期の10ページくらいですごい謎解きの展開になった。
確か秋田のほうで、自分の娘を橋から突き落として死亡させた母親が連続子供殺害事件を装って近所の男の子も殺害してしまった事件があった。
そして 東京で美人の妻がエリートの夫をワインの瓶でなぐり殺してしまった事件も。
何とこの子供と夫を殺してしまった女性の母親達が中学校の同級生だったというのだ。

もちろん 作者はこのふたつの事件を作者なりに調べたことだろうとは思うけれどどこまでが真実なのかは私には分からない。
私はこの二つの事件を覚えてはいるがテレビのニュースとワイドショーで知ったくらいのもので、毎日の流される生活の中では自分には全く関係のない事件だ。
だが最期の謎解きを読んでからは ずっと感じていた屁理屈を並べたような文章に表現されていた深層心理のようなものが我が身にもあったことだと
はっきり思い知らされた。











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