読書記録

2011年06月28日(火) 深重の橋(じんじゅうのはし)         澤田 ふじ子



 以前この作者の『天の鎖』という物語を読んだが、
今回の物語も同じく ”牛”と言う名の底辺に生きているけれど自分の立場をよく理解したうえでしっかりおのれの信念を持った男性が主人公になっている。

 人買いに売られた 牛 が おなじように人買いに売られて湯屋で働く垢かき女の もも と逃げたはいいが、発見されてそれからは二度とももには会えなかった。
 牛 も助けてくれる人がいて 牛ゆえに多くの人から認められる人間に成長してはいくが、五十六歳で病で死ぬという設定に、ハッピーエンドには終わらせなかった作者の意図が分かるような気がした。

 時代背景やその当時の京都の様子、応仁の乱の描写など、まるで歴史ガイドのような文が随所にあってそれはそれでよく理解できたけれど、その分 牛とももの物語が寂しくなったように思う。



生まれてこのかた、自分の前を多くの人々がさまざまな死にざまを見せ、あの世にと消えていった。
(中略)
自分の人生を考えるとき、それらの人々は、自分には幾つにも重なる深重の橋だった。
自分は血塗られたそんな人々を橋とし、この世を幸運にも、多くの人々に助けられ渡ってきたような気がする。


人は成功するとで出自を飾りたがり、嫌な事実や汚名に近いことには、触れたがらないものである。









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