| 2011年07月06日(水) |
母 ━オモニ━ 姜尚中 |
たまにテレビで経済評論家としての丹精なお顔と静かな語り口のお姿を見る。この本は姜尚中の自伝的小説だ。
朝鮮の人が戦前、日本に来て筆舌に尽しがたい苦労をされたことは理解している。 姜尚中の両親は植民地時代の朝鮮から、仕事を求めて日本に来た。しかし、日本でまともな仕事があるはずはなく、両親は苦労に苦労を重ねる。 戦時下の 戦争で溢れる廃材を転売しようと思いついた廃品回収の仕事が、ようやく軌道に乗ったのは戦後しばらく経ってからであった。 しかし読み書きの出来ないオモニの努力は並大抵でなかった。メモをとることさえ出来ないので、商売相手に騙されごまかされることはしばしばだった。 それでも持ち前の勤勉と努力が報われ商売は軌道にのり、作者である息子も熊本から東京の大学にいかせることができた。
そしてオモニが亡くなって遺品の中から見つかったテープは、文字の書けなかった母から息子への遺言だった・・・。 そのテープを聞いた作者が最終的に思いついたことはオモニの本を書くことだった。
どんなところに生きていても、陽は昇り、そして陽は沈む。変哲もないありふれたことだ。 でも、その当たり前を当たり前と思えなかったのはなぜだろう。そうだ、ありのままでいいんだ、ありのままで。父と母がこの国で生まれ、そしてわたしは偶さか日本で生まれた。ただ、それだけのことじゃないか。ならばありのままで生きよう
「永野鉄男か……。でも姜尚中じゃないか。どちらも本当の自分なんだぞ。ならばどうしてそんなに姜尚中から逃げてきたんだ。逃げなくてもいい、ありのままでいいんだ。ならば永野鉄男でいいじゃないか。いや、違う。それなら今までと同じだ。変わろう、変わるんだ」
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