2004年09月26日(日) |
まぁ、仙台だからね。 |
昨日の「黎明前」で竜也くんが東北の寒さにビビっていたが、私も同じような経験がある。 私が勤めているのは鉄鋼関係の会社であるが、この「鉄屋」という業界はまだまだ男尊女卑の思想が残っているところもある。もううちのような商社になればそんなこともないのだが、現場、特に年配の職人さんの間でこの傾向が強い。女性がいかにもキャリアウーマンという体でパンツスーツなどで現場を颯爽と歩いていようものなら、ちくりちくりと皮肉を言われる。現場の職人というのは一度心が通じてしまえばとても頼りになる人達なのだが、反対に一度へそを曲げられると非常に扱いにくい。何と言っても実際にものを作れるのは職人さんなのだから、こちらはもうお手上げ状態だ。 関係会社の中には職人さんが立ち上げた会社もある。そんなところに出向く時は服装から気を遣うものだ。
さて3年位前の冬の話。珍しく仙台へ出張することになった。実はこの出張、後輩の女の子の初めての出張ということで、心細がる彼女の私はただのお供であった。 「何もしなくていいからさぁ。まぁ美味いもんでも食べてきなよ〜。」上司のこんな言葉に絆され、私はちょっとした旅行気分になっていた。 主役はそのお嬢であったので、その出張に関することは全て彼女に決めてもらった。話が服装のことになった。うちの会社には制服がないので冬は大抵パンツスーツである。その日の気分でスカートのスーツを着ることもあるが、そんな時はタイツにロングブーツと足元は暖かくするようにしている。 「あそこの社長さんは結構年配の人ですよね。スカートの方がいいと思っているんですけど…。」 お嬢のその言葉を聞いて、なかなか気が付くではないかと感心し快く承諾した。仕事用のスーツのスカートは大抵短い。当然ブーツを履いていこうと決めていたら、 「ブーツですか…。少し…。肌に近い色のストッキングに普通の革靴の方がいいと思うんですけど…。」 お嬢が難色を示した。真冬にそれ?と少しひるんだが、お嬢に任せると決めたのだからそれに従おうと思い直した。それに東北と言っても地方都市の仙台。何も北海道や八甲田山に登るわけでもないのだから大丈夫だろうと…。 「まぁ、仙台だからね。」
出張の日。普段より薄着という形になった服装ではやはり寒く感じた。そして上野駅で待ち合わせしていたお嬢のコートの下は何と薄い生地のリクルートスーツ(笑)。「わぁ〜、寒そう…」と同情したが、彼女はまだ若いし、それに「まぁ、仙台だからね。」
東北新幹線であっという間に仙台駅に着いた。車窓から見る仙台の空は、雪は降っていなかったが、どんより…雲が低く垂れ込めていた。そしてホームに降り立った途端、その想像以上の寒さに驚いた!ひゅ〜っと足元から襲ってくる寒さに歯がガチガチ鳴って止めようにも止まらないのだ。そのまま2人で歯をガチガチ鳴らしながら乗り換えの電車に乗った。電車の中なら暖房が…と期待していたが、たまたま暖房機能が壊れていたのか何だが知らないが、ちっとも暖かくない。反対にどこからかヒュワ〜っと風が入って来るのだ。いくらロングコートを着ているとは言え足は無防備で、その内足のつま先が寒さの余り痛くなってきた。電車の中で寒さで足のつま先が痛くなったのは初めてのような気がした。 「あつこさ〜ん…寒いよぉ〜…」とお嬢が歯を鳴らしながら泣きそうな声を出した。心の中では「情けない声を出すんでないよ。余計寒くなるではないか!私の方が年がイッテんだから、体感温度は貴方よりずっと寒いんだからね!」と思ったが、「寒い寒いと言うから寒いの。寒くない、寒くない…」と変な精神論を持ち出した。まぁそれも虚しく電車の音にかき消されのだが…。 その内耐えきれなくなり、私達は靴を脱いで電車の椅子の上に正座した。その方が足が暖かいのだ。そこに乗り合わせていた乗客達は怪訝そうな顔をしていたが、そんなことは知ったこっちゃなかった。兎に角この歯の鳴りを止めてよ〜(泣)
何とか目的の会社に辿り着いた。さすがに暖房がよく効いている。応接室に通され、ソファに座っている私達に問題の社長が一言。 「あんた達、まぁ〜そんなに足出して〜。寒いだろうに…。」 …何だよ…と力が抜けた。 「まぁ、仙台ですから。」とこの時は言えなかった。
仙台は間違いなく東北だった。遅くなったら泊ってもいいことになっていたが、私達は夕方さっさと帰って来た。 お嬢は風邪をひいて会社を何日か休んだが、私は頑丈にできているので元気に出社した。 もちろんパンツスーツを着てね。
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