竜也語り

2004年11月26日(金) 愛猫の想い出

11月は我が家で飼っていたネコの命日である。とは言っても正確な日にちは忘れてしまった。もう何年になるだろうか…覚えているのは11月のある土曜の曇った日ということだけである。
そのネコが我が家にやって来たのは私が高校生、弟がまだ小学生の頃だ。何処からか迷ってきたらしく、近所でうずくまっているのを弟が拾ってきた。もう大人だった。少なくとも生まれてから1年は経っているようなネコだった。両親は正直困り果てていたがそのネコがどうも具合が悪そうだったので、取りあえず面倒をみた。3日間何も飲まず食べずでもしかしたらこのまま死んでしまうのではないかと心配したが、4日目の朝ニャーニャー鳴いて食べ物を要求してきた。すっかり元気を取り戻したそのネコは家から出しても出しても戻って来てしまうのだ。当人にしてみれば「いい所が見つかったぞ。このチャンス逃してなるものか」という思いだったのだろう。三毛猫と何かトラみたいな模様の混じり合った文字通りの駄猫だ(笑)。そのネコを「ミー」と名付けた。なんのひねりもない名前で、このことからもいかにこのネコが当初我が家にとって軽い存在であったかがわかると思う(笑)。

それから2〜3週間後私達は驚愕の事実を知った。なんとミーはハランでいたのだ!だから具合が悪かったのだ。ここまで来たらどうすることも出来ずミーはそのまま家で3匹の子猫を産んだ。母と近所のおばちゃんが取り上げたのだ(笑)。たぶん初産だった思う。さて次の問題はその3匹の子猫をどうするかだ。いくらなんでも4匹は飼えない。そこで弟と2人で画用紙に「可愛い子猫差し上げます!」という文字と下手くそな絵を描いてそこら辺の電信柱に貼ってまわった。宣伝の効果がありじきに3匹とも里子に出すことが出来た。ミーは暫く子猫達を捜していたが、その内に忘れてしまったようだ…。この出産騒ぎの後両親が慌ててミーを手術してもらったのは言うまでもない。

このミーは我が家で初めて飼ったペットになるわけだが、最初の頃とは打って変わり私達家族4人はそれはそれはミーを可愛がった。まさに猫可愛がりだ。家の中でも外でもミーに遭遇すれば必ず「ミーちゃ〜ん♪」と甘い声を出してなでなでしてやったし、サキイカや刺身などをミー様のお口の大きさに合わせてわざわざ細かく切ってやったりもした。もちろんコタツの真中でミー様が寝ていたら皆遠慮して足を縮めていた。家族全員でこれをやっていたのだ。たまに遊びに来る親戚連中は呆れていた。そしてその結果ミーはとっても我儘で過保護なネコとなり、1人で留守番もままならないようになった。なるたけ家族の中で1人は家に居るように調整し、4人全員が重ならないように出かけていた。こんな状況が19年間続いたのだ。今から考えるとよくやっていたなぁ…と我ながら感心する。
その19年間の間に家族の状況は随分と変わった。私もOLになり、家を出たり戻ったりとわけのわからないことをやっていたり、弟も小学生から社会人となった。そうだ父の入院なんてのもあった。ミーはそんな我が家の喜びも悲しみも全て共有してきたのだ。

人間が歳をとるようにミーも歳をとった。晩年の頃はもう足もすっかり弱くなり耳も聴こえなくなっていた。臨終する1週間前は何も食べなくなってしまった。医者へ連れって行っても「どこも悪いところは無いんですよ。もう寿命ですから…。このままお家で静かに看取ってあげて下さい」と何の処置もしてもらえなかった。そしてその日がやって来た。土曜の朝ミーは一生懸命鳴きながら私達に何か訴えるのだが、衰弱してその鳴き声は無声の吐息だけで声になっていなかった。どうも外へ出たようなのだ。こんな状態でと心配したが、もしかしたらトイレかも知れないと玄関から出した。ヨタヨタと道を歩いて行く後ろ姿を見たのが最後となった。それから待っても待ってもミーは帰って来なかった。夕方になって母と私はそこら辺を捜しまわったが、その時近所のおばちゃんが言ったのだ「死ぬ姿を見せたくなかったから出て行ったんだよ。それを捜しちゃ可哀想だよ…」その通りだと思った。そして私達は諦めたのだ。父はその日の夜、弟は次の日の夜ミーの死を知った。2人とも「そうか…」と呟いただけだった。

私は友人や家族にも話せないことをこっそりとミーに話したものだ。嬉しいことも悲しいことも恥ずかしいことも。ミーはじっと私の目を見て聞いていた。ある意味ミーが一番私のことをよく知っていたのかも知れないな。もしかしたら父も母も弟も…ミーだけにこっそりと話をしたことがあったかも知れない。ミーはそんな家族の秘密を全て自分の胸にだけしまって逝ってしまった。
あれ以来我が家ではペットを飼っていない。その代わりツバメがやって来たが…。これからももう2度とペットは飼わないつもりだ。ミーが最初で最後の我が家のペットとなった。あれだけ可愛がったペットの命日を正確に覚えていないとは何か薄情のように思われるかも知れないが、私はペットはそれでいいと思っている。生きている間だけこちらは精一杯愛情を注ぎ、向こうも精一杯愛情を返してくれる。人間とペットの絆とはそれで十分だと思っている。


 < 過去  INDEX  未来 >


ATSUKO  [HOMEPAGE]

My追加