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B-SIDE DISC7 
杏子



 隠れ家

さて 

昨夜記した香水の オハナシ。



今日 事務局長が、席を外したこの部屋で

私は 件の香水を


理事長に 手渡しました。



以前 自分用に買ったんですが

結局 使わなかったので


香り 気に入られたら 使ってください。






さすがに 


あなたの事を考えながら

あなたに似合う香りをイメージして

あなたのために これを買いました。


とは 言えなくて


何度目かになる こういう嘘 をついて

私は理事長に香水を 手渡しました。




理事長は 少しだけ驚いた顔をして

手渡された 瓶の蓋を外して


香りを軽く吸い込むと



爽やかだね。



そう言って 私に微笑をこぼすのです。



その後に 続く言葉は無くて


無音の中、理事長の指が その瓶のアウトラインを

何度も何度もなぞる



そういう光景を 目の当たりにすると



あぁ やっぱり馬鹿なことをしてしまった と


私の心に少しだけ 

苦いものが広がるのを 感じるのです。




たまらなくなって


私は密かにバッグに忍ばせていた

2本目の瓶を取り出します。



これと迷ったんですが…


これは気に入ってしばらく使ってたもので

どっちが お好きですか?








これは本当に 私用にと思って

一年前くらいに購入したもの。



けれどもなんとなく 思いついて持参した

そういう香水だったので。




先ほどと同じように その透き通った薄い

エメラルドの瓶の蓋を開け


香りを嗅ぐ 理事長。


顔を上げた瞬間



あぁ これはいい香りだな。

もっと 爽やかで 甘い。





女性用として 売り出されたものなので

でも、男性がつけても 素敵だと思いますよ。





ありがとう。




たまらない 気持ちが溢れ出て



きっと こういうものを貰っても

お困りになるだろうってことぐらい

予想はしてたんですけど (苦笑)


なんとなく 持ってきてしまいました。


…ごめんなさい。




思わず 苦い想いを口にしてしまう私は

やはり 理事長の前では


ただの甘えた小娘 です。




いやいや 嬉しいよ。


でも、

自宅には やっぱり置けないから


ここに隠しとこうね。





その2本の瓶は この部屋の

理事長の机の 上から二段目の引き出し


そこを隠れ家として


2つ並んで ひっそりと仕舞われる。



2人で使えばいいさ。



その一言で その隠れ家は

耽美で甘く 切ない空間に 変わるのです。





勇気を出して今日 私は理事長に

とても気恥ずかしい おねだりをしました。



それは2,3日前に見せられた

まだ理事長が 30代前半だった頃


今から25年以上前の理事長を捉えた



小さな 証明写真。




同じく 

理事長の机の二段目の引き出しから出てきたそれ


見せられた瞬間

私はその精悍な顔つきに 絡め取られるように

視線を離せなかったのですが


時間が経つにつれ

どうしても その写真を手元に置いておきたい と


そういう 子供じみた想いが

何度も何度も私の心を廻るので



ついぞ 勇気を出してそのことを

理事長に告げたのです。




ははは。 


こんなもの

欲しいと言われたら惜しげもなくあげるけどさ (苦笑)


捨ててもいいからね。




今までに見たことのないくらい

ものすごく 照れた笑いを浮かべながら


手渡された写真。




いざ 自分のものとなってみると


どうにも



気恥ずかしくて 直視できなくて



私のワインレッドの革の手帳

裏表紙の透明なポケットに


裏返しで それは仕舞われました。




ここは 今日から

私の心の隠れ家ですね。





理事長の 2度目の照れ笑いを見ながら




三文小説流の台詞に関しては

私も 負けてないな



などと 思うのです。(苦笑)



















2008年11月26日(水)
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