* たいよう暦*
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あさ一番の信州の空気は、間違いなくおいしい。 その空気をすいながら、靴紐をしっかり結びなおし、駐車場をあとにする。 いよいよ、一泊二日のテント泊山行の、はじまりはじまり〜。
ロープウエイに乗って、一気に高度をかせぐのは、一週間前の木曽駒ヶ岳と一緒。 でも、まぶしいほどの太陽の光と、澄み切った青空でがらりと雰囲気が違う。 先週もはれていればよかったのになあ。
ロープウエイを降りてから西穂山荘まで一時間半。 重い荷物をかついで登り、まずはテントを張る。 山荘に比べればごくごく小さなテント。 でも、何度みてもこの小さなテントが張られるたびに、自分の居場所が確保できた、と安心感がわくし、そしてなによりぴん!とはったテントがとてもたのもしく見える。 そのテントに荷物をおいて、いよいよ山頂を目指し始める。
私は、3000m級の山は、みっつしか知らない。 そのどれもが、最終的にはひとつの山頂を目指すものだった。 山頂まで延々登るし、ゴールはひとつだけ。 それが、山というものだと思っていた。 ところが、今回登る「西穂」は山頂までいくつものピークが続く。 つまりは、登ったり降りたりを何度も繰り返すということ。
・・・・といっても、それは登り始めてから知ったことで。
「なんで下るん?今までせっかく登ってきたのに!」 「次のピークがあるからやろ」 「次の見えてる頂上が、あれが、山頂?」 「まだまだ、こっからは見えへん。あのピークのまだまだ先や」 「これ、山頂?」 「まだやで」 「・・・・・うーっ☆」
そんなことを繰り返し、まずは「独標(どっぴょう)」までたどりついた。 ここは、山の頂上がにぎわっている。ツアー客も多い。 ところが、そこから先にそびえる山々に、人の姿はほとんどない。 後で話しを聞くと、「独標(どっぴょう)」から「西穂山頂」まで、大小あわせて13のピークがあるそうだ。 (先に聞いていなくてよかった!聞いていたら途中で挫折したかも・・・!)
独標の独特のシルエットに別れをつげ、ピラミッドピークと呼ばれるピラミッドそっくりなシルエットの山を越え・・・。 心構えさえできてしまえば、登って下って・・・を繰り返す方が、登りばっかり、下りばっかりよりはるかにおもしろいことに気づいた。 楽しい。山を次々に征服しているかんじ。 でも、おもしろいのと体力とは別問題の話だ。 山頂の手前で、だいぶ疲れてきた。
ちょうどそのとき、ヘンな鳴き声が聞こえたなあ〜と思っていると・・・雷鳥! 写真でしか見たことのない、茶色のまだらの、あの雷鳥が、目の前を親子連れでほてほて歩いている! 誰にもおびやかされたことのない彼らは、人間が近づいてもほとんど逃げない。 そのぼうっとしたところに心和まされる。というか、妙におかしい。 人間に気づいて、あれ?ってなかんじでぼうっとしている。 そんなにぼうっとしていて、大丈夫かい?なんてこちらが心配になってしまうほど。 カメラを構えて、何枚か写真をとっているうちに、休憩もかねてだいぶ元気になってきた。
そこからもうひとふんばりして、ようやく、西穂山頂にたどりついた。 青空を背に、はげはげの木に「西穂山頂」とかかれている。 山頂には、誰も人影がなかった。 青空が、近い。 わたる空気はどこまでも澄んでいて、冷たくて気持ちいい。 どこまでも静かで、風の音だけがひびいている。 山頂でただ風に吹かれ、ゆっくりと時間を過ごした。 いい時間だと、いつも思う。
また、こうやって、こんな時間がもてますように。 いつも、山頂で、そう思う。 そうして、私はまた山に向かうのかもしれない。
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