* たいよう暦*
日記目次過去日記未来日記


2004年09月12日(日) 西穂山頂

あさ一番の信州の空気は、間違いなくおいしい。
その空気をすいながら、靴紐をしっかり結びなおし、駐車場をあとにする。
いよいよ、一泊二日のテント泊山行の、はじまりはじまり〜。

ロープウエイに乗って、一気に高度をかせぐのは、一週間前の木曽駒ヶ岳と一緒。
でも、まぶしいほどの太陽の光と、澄み切った青空でがらりと雰囲気が違う。
先週もはれていればよかったのになあ。

ロープウエイを降りてから西穂山荘まで一時間半。
重い荷物をかついで登り、まずはテントを張る。
山荘に比べればごくごく小さなテント。
でも、何度みてもこの小さなテントが張られるたびに、自分の居場所が確保できた、と安心感がわくし、そしてなによりぴん!とはったテントがとてもたのもしく見える。
そのテントに荷物をおいて、いよいよ山頂を目指し始める。

私は、3000m級の山は、みっつしか知らない。
そのどれもが、最終的にはひとつの山頂を目指すものだった。
山頂まで延々登るし、ゴールはひとつだけ。
それが、山というものだと思っていた。
ところが、今回登る「西穂」は山頂までいくつものピークが続く。
つまりは、登ったり降りたりを何度も繰り返すということ。

・・・・といっても、それは登り始めてから知ったことで。

「なんで下るん?今までせっかく登ってきたのに!」
「次のピークがあるからやろ」
「次の見えてる頂上が、あれが、山頂?」
「まだまだ、こっからは見えへん。あのピークのまだまだ先や」
「これ、山頂?」
「まだやで」
「・・・・・うーっ☆」

そんなことを繰り返し、まずは「独標(どっぴょう)」までたどりついた。
ここは、山の頂上がにぎわっている。ツアー客も多い。
ところが、そこから先にそびえる山々に、人の姿はほとんどない。
後で話しを聞くと、「独標(どっぴょう)」から「西穂山頂」まで、大小あわせて13のピークがあるそうだ。
(先に聞いていなくてよかった!聞いていたら途中で挫折したかも・・・!)

独標の独特のシルエットに別れをつげ、ピラミッドピークと呼ばれるピラミッドそっくりなシルエットの山を越え・・・。
心構えさえできてしまえば、登って下って・・・を繰り返す方が、登りばっかり、下りばっかりよりはるかにおもしろいことに気づいた。
楽しい。山を次々に征服しているかんじ。
でも、おもしろいのと体力とは別問題の話だ。
山頂の手前で、だいぶ疲れてきた。

ちょうどそのとき、ヘンな鳴き声が聞こえたなあ〜と思っていると・・・雷鳥!
写真でしか見たことのない、茶色のまだらの、あの雷鳥が、目の前を親子連れでほてほて歩いている!
誰にもおびやかされたことのない彼らは、人間が近づいてもほとんど逃げない。
そのぼうっとしたところに心和まされる。というか、妙におかしい。
人間に気づいて、あれ?ってなかんじでぼうっとしている。
そんなにぼうっとしていて、大丈夫かい?なんてこちらが心配になってしまうほど。
カメラを構えて、何枚か写真をとっているうちに、休憩もかねてだいぶ元気になってきた。

そこからもうひとふんばりして、ようやく、西穂山頂にたどりついた。
青空を背に、はげはげの木に「西穂山頂」とかかれている。
山頂には、誰も人影がなかった。
青空が、近い。
わたる空気はどこまでも澄んでいて、冷たくて気持ちいい。
どこまでも静かで、風の音だけがひびいている。
山頂でただ風に吹かれ、ゆっくりと時間を過ごした。
いい時間だと、いつも思う。

また、こうやって、こんな時間がもてますように。
いつも、山頂で、そう思う。
そうして、私はまた山に向かうのかもしれない。


たいよう |HomePage