午後8時19分。 お風呂の中。 突然。 バラが。 アタシのバラが。 アタシだけの、バラが。 抱きしめたくなって、お風呂を飛びだして。 髪の色も変わりきらぬまま。 夜の11時まで開いている近所のジャスコへ……。 確か。 フラワーコーナーに、バラが置いてあったハズだ、と。
198円。 はい。 売れ残りの、名前もない、バラ。

不思議な色合いの花びらが。 まるで色あせたようだ、と店のヒトは不良品ですよ、とひと言。 だから。 ほかのバラは398円とか598円とか、 高いと1980円もするのに。 このバラは198円。 値段ではナイ。 もちろん、ナイけれど。 ひと目でアタシは。 このバラがアタシだけの一輪なのだ、って。 出会ってすぐに、 わかってしまったのデス。
バラの花のすがたが、ねむっているあいだも、ランプの灯のようにこの王子さまの心の中に光っているからなんだ……
サン=テグジュペリは語りました。
アタシは、アタシの大切なものに、時の雫をかけてあげているだろうか? そう想うと、ちょっぴり不安。 アタシは。 アタシのことだけでアップアップで。 アタシの大事なもの、本当に大切にしているだろうか? ……って。
このバラは。 アタシ、の、バラ。 アタシのトキを与えて、大切に手入れをする。 そう想った刹那、アタシだけのバラになる。
本当に、珍しい色なのです。 ピンクが年齢を重ねたような、乾いた淡桃色。 でも、とてもキレイ。 もう見捨てられて、棚の下に置かれて葉っぱも枯れたまま。
きっと、アタシ。 またイゾンしてるんだろうな。 お風呂の中で。 嵐のようにバラを想い。 走った先に、この見捨てられた花。 アナタにはアタシが必要なんだよ、 そして。 アタシにはもっと。 アナタが必要なのです。
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