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2003年04月12日(土) ---





現在の状況に対して

どうにもしっくりしないと感じるときや

微妙に調和が取れていない気持ちになったとき

そんなときに感じる

随分と的確なたとえだ

どこか途中で

もしかすると最初から

かけるべきボタンの場所を間違ってしまっているために

最後のボタンがかからない

そんな状態

そのままでいたところで外見をさらっと眺めただけでは

たぶん

他の誰もが気付かないほどの

本当に些細な間違い

当人であっても感じ取れるのは

どこかを確実に間違えているはずなんだという

曖昧で

上手くかみ合わない感触だけ

だから

どこで間違えたのか

どこを間違えたのか

それすらもわからずに戸惑うのだ

そして漠然とした不安感と違和感だけが

拭いても拭いても落ちない汚れみたいに

ひっそりと心の片隅にこびり付く

この不安感と違和感を拭い去るための賢くて冴えた方法は

すべてのボタンを外して

始めからゆっくりと慎重にかけ直すことだ

もちろん狙いを定めて

特定の箇所からボタンをかけ直しても良いのだけれど

それは賢い方法じゃない

さらに間違いを重ねて

とんでもないかけ違いをするかもしれないから

どう考えてみたところで

冴えた方法じゃあ

ない

そうして

わかりやすそうな言葉と控え目な表現を選びながら

私は彼女の相談に乗っていた

あまりに陳腐なたとえではあったけれど

陳腐であるということは裏を返せばそれなりの効果を上げてきている証拠みたいなものだろう

もちろん

その論理すらも陳腐の極みではあるのだろうが

彼女は煙草の煙を中空へと吹きつけて口を開く

「また最初からやり直すのは面倒」

「それは勝手に決めればいいさ。やるもやらないも、自分の意思だ」

喉の奥で小さくうなり声をあげて

彼女は眉間に皺を寄せた

悩んでいるらしい

確かに口で言うほどには

やり直すということなんて簡単なことではないはずだ

でもそれは何だって同じことだろう

たっぷりと時間をかけ

根元まで煙草を吸い終えてから

再度

彼女は質問を投げかけてくる

「やり直してもな、またボタンをかけ間違ってたらどうすればいいの?」

「掛け間違えないように気をつければいい。それに時間と集中力さえあれば、自分が満足いくまで、何度だってやり直してもいいだろ」

「力を込めすぎてボタンが取れたら?」

予想外の台詞に

一瞬

言葉に詰まりそうになる

「取れないように、慎重にするしかないだろ。それに、また付け直したって構わない」

「他人事だと思って。第一、元からボタンの数と、ボタンの穴の数が合ってない不良品だったら、やり直すだけ無駄じゃない」

彼女は新しい煙草に火を点けながら

ぼそぼそと愚痴を零している

私は軽く席を立とうとした

相談には充分過ぎるほどに言葉は尽くしたはずだ

あとは彼女次第だ

立ち上がってから

私は最後の言葉を

いくぶんか皮肉を込めた言葉を彼女に放った

「そんなに嫌なら、そのままボタンをかけ間違えたままでいるか、ボタンの付いてない服でも買えばいいだろ」

「どこで売ってんの、それ」

彼女は相変わらず難しい顔をしたまま

煙草の煙を吐き出して

続ける

「今着てるやつも、返品とか出来ないのかな」

背中に迫ってくる言葉にはもう振り向かず

私は考えていた

服を交換するように人生もやり直せるなら

誰もボタンのかけ間違いなんかで悩まないだろう



面倒ならば

かけ間違えたままでいればいいのだ

あるいは

いっそのこと

服を脱ぎ捨てるとか

それなら今からだって出来るだろうし

もちろん

ちらりと考えただけで口には出すことなく

私は黙ってその場を後にした

彼女はいつまでもその場所で悩み続けていた











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