柊小説

2006年02月26日(日) アカイヌクモリ  ―――�后檻粥宗�

 苦痛で人の一生分くらい永い生活から一ヶ月を迎えた。事件のことで警察は頻繁に来ていたけど、犯人逮捕に繋がる有力な情報はこれといってなかった。そんな警察は帰り際、僕に熱意を込めて言った。
「君をこんな風にした犯人を私たちは総力を上げて必ず逮捕する、約束する。だからもう少しだけ待っていてくれ」
この台詞は僕に一ヶ月、家族には四ヶ月近く繰り返していた。言葉は前向きなものの、逮捕に対する気持ちは情報がないせいか、どうでもいいと思っている僕からですらやる気がないと見えた。検挙率が毎年低下し深刻化しているのにも納得ができた。

 一ヶ月が経つということは、母親の話も終わるという意味でもある。
さすがにこの頃になると話す側としても飽きが出てくるのか、話し方も初めのうちから比べると深刻さや緊張感がなくなって、内容も省略されている所が多かった。それでも、この日は最後ということもあり、初めて聞く話もあった。
 僕が病院に担ぎ込まれてから間もなく、事件の匂いを嗅ぎつけたマスコミは自宅はもちろんのこと、病院にまで押しかけてきたという。新聞にもそこそこ大きな見出しでとり上げられていた。

【早朝の惨劇──。中二少年、ピッキング師と揉み合い重体】

 エスカレートするマスコミの執拗なマイクの向けようにも、家族は一切口を開くことはなかった。その連日押し寄せる大勢の波に三人はノイローゼ寸前。──とうとう抑えきれなくなった親父は四六時中マイクを向けることをやめなかった一人の記者に脅しをかけた。普通ならここで脅した分に相当するバッシングが返ってくるとこだけど親父はただならぬ脅し方をしたらしく、以降マスコミは一斉に家族の前から姿を消したという。どんな脅し方をしたのかは誰一人として未だに聞かされていない。──もうひとつ。
「──それにしてもさ、シドは相当学校側から気嫌いされてたみたいね。入院してすぐに担任と何人かの教員が見えて──まあ、面会謝絶してたから、詳しいことがわかったらお知らせくださいって言ってその時は帰ったんだけど、それ以来時々電話はあるけど、一度も顔見せないわよ」
通常のトーンで母親はそう話したけど、相変らず僕には、
�犇技佞覆鵑討修鵑覆發鵑性�
と返す気力もなかった。それでも、この一ヶ月を過ぎようとする頃から僕の中で�犹爐覆擦蹲瓩箸いΦせ�ちと�狎犬�るべきなのか�瓩箸いΦせ�ちが家族のポツリと零す何気ない一言で揺れるようになっていた。ただ、そんな気持ちの変化のようなものがありながらも�狎犬�よう�瓩箸楼貪戮箸靴道廚Δ海箸呂覆�った。

 十月七日、十五時を回る前に母親の話がフィナーレを迎えた。
「話を始めて今日で一ヶ月だね。この一ヶ月は、シドを自宅療養するってことに私たちがどうにか慣れて生活リズムを作る一ヶ月でもあったの。実際シドにはこの一ヶ月間がどうだったのかってことはわからないけど、私たちはある程度慣れて落ちつきも出てきてるなって感じ……」
この後、母親の口からは僕が想像もしていなかった──けどどこかで微かに期待していた言葉が発せられた。
「──ということで、長い話も終わったし……口が痛いね。今日で拒否し続けてきた面会を解除する。明日から……会えるよ、みんなに」


 < 過去  INDEX  未来 >


柊大地 [MAIL]

My追加