柊小説

2006年03月06日(月) アカイヌクモリ  ―――�此檻供宗�

 しっかしよくメシ食った後すぐに廊下走ったり、あんなにはしゃげんな。 考えらんねえ
 

 試しに交ざってくれば
 

 バカ言ってんじゃねえよ。今あんなに動いたら間違いなくリバースだ。顔 にかけるぜ
 

 汚い!──あっ、ちょっとこんなとこで煙草吸わないでよ
 

 くわえてるだけ
 

 片手にライター持ってるでしょ!火までついてるじゃない。──ねえ、外 に行かない?
 

 外?
 

 うん、散歩したい


 ちょっと面倒くせえかも。煙草吸っていい?


 外!ならね


 ……いいんだ?


 今日は天気がいいね。すっごく気持ちいい


 煙草がうまい


 そんなことばっかり。──そういえばさ、三時限目だったかな、サジが教 室を出てしばらく戻ってこなかったんだけど、何かあったのかな?


 ああ、トミナガに呼び出し喰らった


 シドも?


 そう、五人


 え、何で?


 第三高校のヤローと揉めた話、したよな。それが学校にまで回ってきて状 況を説明しろって感じで。まあ、どうってことなかったけど


 先生に変なことしてないよね?


 ……ちょっと脅したくらいっす


 バカ!やめなさいそういうことするの


 申しわけない


 罰として、今日は一緒に帰りません


 ずいぶんと軽い罰だな


 もう!でも悪いけど今日は本当に帰れないの。リョウコの相談に乗らなき ゃいけないから。学校終わったらそのまま二人で帰るね


 そっか、わかった


 ごめんね。──それで、シンちゃんにはもう話した?


 いや、まだなんだ。なかなか二人になる時がなくてさ
 もし無理そうだったら電話でもいいよ


 それはだめだな。あいつの赤面する顔が見たいから。それだけが楽しみだ からよ


 悪趣味だね



「──あの日はリョウコの家に行くからって、下校の時もシドにバイバイもしないで帰っちゃったんだよね……。ごめんなさい──!まさかこんなことになるなんて、あの会話が最後になるなんて考えてもいなかったから──。ずっと……ずっと続くと思ってた。明日になればまたシドと一緒にいられる、週末にはどこで何をしようかって話もできるって──」
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 僕らはそこらにいる、どこでもイチャつき一センチすら離れられないようなアホカップルではなかった。一日�牾惺鮫瓩箸いζ韻厳�物の中にいて、一度も話さないどころか顔を合わせなくたって寂しいとは全く感じなかった。心には常に留めてあったからどこにいても、しばらく会えなくても特に気落ちすることもなかった。けど、こんなことになるのだったら常に腕が触れる距離でいればよかった……と僕は俯き涙を零すヒトミを見ながら後悔の念を抱いていた。
「次の日の朝、シドのお母さんから連絡が入った時、私……ショックで頭の中が真っ白になって倒れちゃったんだ。それから四日間はベッドから起き上がることもできなかった。食べ物もほとんど喉を通らなかったし。二十日間くらいかな……ずっと寝込んでて誰とも会う気がしなかった。これは悪い夢なんだって自分にそう言い聞かせてたから、そこに入ってこようとする人は親でも友達でも拒絶した──。自分でも何でそこまでする必要があるんだろうって思った。あのリョウコにさえ──。それから、やっと学校に行けるようになったけど正直、行ってもいい状態じゃなかった。教室に入った途端に吐き気がしたり、酷い時は校門に入る前でそういう症状が出た時もあったんだ……。もうどうにもならなかった。立ち直らなくちゃいけないって思ってても涙が止まらないし、身体が私の気持ちを拒むの──。どうしたらいいのかわからなかった。もしかしたらこのまま、自分の意識が手の届かない所へ行っちゃうんじゃないかって──。そんな時でもね、ずっと傍にいてくれたのがリョウコだった。急に泣き出したりしちゃう私をなだめてくれたの。ほとんど毎日だったから……本当はすごく嫌だったと思うんだ。でも、本当に優しくしてくれた。リョウコは──サジとかみんなもそうだけど、ずっと私を支えてくれてたんだよ……。そのおかげでなんとか普通の生活ができるようになってきたんだけど……でも、やっぱりだめなの……!シドがいないと私は何もできないの。シド……ねえ、どうしてそんなに遠くを見てるの?そんな方に、私はいないよ……」
僕は……生まれて初めて心の底から慟哭した。体が震えることも、涙腺が緩むこともなかったけど──。この時以上に気持ちが伝わらない、伝えることができないことが辛いと思ったことは一度としてない。
「本当はね、誰よりも早くシドに会いに来たかった──。サジはシドのお母さんから、来てもいいっていう連絡が入った後すぐ私に言ったの。『明日からシドに会えるぜ。……無理にとは言わない。ただ、シドが待っているのはお前なんだから』って──。すごく迷った。恐かったから……。私の知っているシドじゃなくなってたらって考えると、恐くて動けないくらい全身の震えが止まらなかった。でも乗り越えなくちゃいけない。私はシドの女だから──」
ヒトミは立ち上がり、目線を外さずに太ももに添えてある僕の手を握った。そして、自分の胸までそっと持っていった。ヒトミの心臓がドキドキしていたのかどうかはわからない。でも、目は真っ赤に充血して頬や小鼻は涙で濡れていた。
「好き……好きだよ。今まで一度も口にしたことがなかったけど……大好き。でもちょっと遅いかな?……ねえ、シドは次のデート、何をしようと思ってたの──?」
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ヒトミの唇が僕の唇に重なるまでの時間は、瞬きも許されないほど一瞬のことだった。気づいた時にはキメ細かな肌と、閉じた瞼から流れる涙が映っていた。あまりにも突然のことで、僕は微かに聞こえるヒトミの細い息遣いを耳にしながら気を落ちつかせようとしていた。ヒトミは瞼を閉じたまま時々、嗚咽により体を震わせていた。
 僕とヒトミがキスをしていたのは時間にしてどれくらいだっただろう。五分、十分、いや、それ以上かもしれない。そんな時間の感覚を忘れてしまうほど、唇を重ね合っている間は�牘扮鶚瓩謀�しかった──。何も考えることができない、考える必要のない別世界だった。唯一�牋Ν瓩箸いΔ發里世韻�存在していた気がする。
「──また来るから。だからがんばろうね……」
ヒトミは唇を離すと僕を抱きしめた。──あの時、僕がしてあげたかったように、両手いっぱいに。そして、好き、と耳元で囁いた。
抱きしめられている感触はなかったけど、その重圧は心が張り裂けるほど強く感じた。
 ゆっくりと扉に向かうヒトミは、歩を進めながらも僕をずっと見つめていた。その目は毎晩のように夢に出てきたあの同情や哀れんだ目ではなかった。何かを誓うような目だった。それから、扉の前で立ち止まったヒトミは照れたような微笑を正面の僕に送った後、静かに扉を閉めた──。どんどん小さくなっていく足音を聞きながら、この音が再び僕にに向かってくる日は本当に訪れるのだろうか、と少し不安な気持ちを抱いていた。それでも�爛�ス�瓩箸いβ�りものの余韻に僕は完全に心を奪われていた。
 ヒトミの変わらぬ気持ちを僕は真っすぐに受け止めた。ヒトミがいてくれればがんばれる、何とかやっていける……。
 けど、この日を最後にヒトミは僕の前から姿を消した。


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柊大地 [MAIL]

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