| 2006年03月29日(水) |
アカイヌクモリ ―――ヒトミ――― |
シドの鼓動が停まった。私の腕の中で……。何も考えることができない。 �牋Δ靴討襪次▲劵肇澂瓠 � シドはほんの数秒前、確かにそう言った。小さくかすれていたけど……あれは紛れもなく彼の声だった。私の頭にはその言葉だけが止むことなく、延々と流れるように響いている。喋ることなんて不可能だった彼が最期の最期で──。それも私なんかに。何ひとつ力になれなかったこの私に……。シドは私を待ち続けてくれた。そう思った途端、涙が止めどなく溢れてきた。そして、彼の乾燥した唇に私はしばらく潤いを与え続けた。もう一度言って。もう一度目を開けて。そう祈りながら──。 溢れ出る涙を拭き、嗚咽を抑えながらお母さんにシドの死を伝えるため、リビングを出た。私の足音を聞きつけたのか、お母さんは、もう帰っちゃうの?と寂しそうな顔をした。お母さんは四年前にここを訪れた時と全く変わらず、むしろ綺麗になっている気がする。この状況で、そんなことを考えるなんて不謹慎かと思うけど……。 私がインターホンを鳴らした時、お母さんは疲労感に溢れた顔をして出てきた。帰って!そう言われるものだと思い下を向いていたら、 「久ぶりね。遅い!って言いたいけど、シドは当然、私もずっと待ってたよ。ありがとう。でももう時間がないの。早く会ってあげて」 そう言ってくれた。けど、嬉しいという気持ち以上に申しわけない気持ちでいっぱいだった。そして──彼は変わり果てていた。四年前とは比べものにならないくらい。みんなから言われ続けていた�犂饑廰瓩箸いΩ斥佞蓮△發Α帖痛召瓩覆い發里世隼廚辰討靴泙辰拭�
「どうかしたの?」 「シドが……たった今息を引きとりました──」 私は声が震えないように喉に力を入れて言った。お母さんは静かに頷くとリビングへ向かった。そして、シドのあらゆる場所の脈をとった。 「主治医のシラギと二人に連絡してくるから、傍にいてあげて……」 「はい……」 お母さんは涙を流すことなく、無理矢理だったけど笑顔を作ると、シドの髪や顔に触れ、お疲れさん、そう告げてリビングを出た。その間、私はもう一度シドを抱きしめキスをした。お母さんが戻ってきたのも気づかぬまま──。 点滴の管を抜くのはシラギ先生がシドの死亡を確認してからということを聞かされ、とりあえず目だけを閉じさせて、私とお母さんは膝を抱えて先生の到着を待った。──言わなければいけない、私はそう思い、シドが言葉を発したことをお母さんに告げた。すると、 「ヒトミちゃん、人間に飼われている動物の最期って聞いたことある?」 と自分の膝一点を見つめたまま訊いてきた。 「動物の最期ですか?いえ、聞いたことないですけど……」 「全部が全部ってわけじゃないのよ。けどね、犬にしろ猫にしろ、その動物が自分の中で主って決めてる人間には最期を看とってほしいって気持ちが強いらしいのね。だからどんなに死にそうでも、限界を超えてても、主に自分の生きている最期の姿を一目見てもらってそれから息を引きとる動物って多いらしいの。別にシドが動物的ってわけじゃないけど、待ってたんだよ、絶対。自分の一番大切な人を。じゃなかったらこんな身体で、愛してる、なんて言えるはずがないよ」 「──すいません」 「やだ、ちょっと謝らないでよー。──でも悔しいよね。毎日毎日看てきたのに何で私に言わないんだろ?この罰当たり!」 お母さんはシドに微笑みながらそう投げつけた。 「実を言うと私、明日後こっちを出ようと思ってたんです」 「旅館のこと?」 「はい……。その直前に来るなんて、最低な女ですよね、本当に……」 「正直、そんなことないよ、なんて言えないけど、シドのことを思うと、自ずと感謝の気持ちが湧いてくるよ。だからそんなに自分を責めないで」 私は何も言えなかった。そして、お互い違う想いでシドを見つめていると、外から車のドアが閉まる音が聞こえた。
「ご臨終です」 シドの死亡確認がされて間もなく、彼の二十年後を見ているようなお父さんと、お母さんによく似たお姉さんがほぼ同時に帰宅してきた。お父さんはシラギ先生に会釈をし、シドを見て体を震わせながらそっと手のひらで涙を拭いた。お姉さんは泣き叫びながらシドに抱きついた。三人に頭を下げたけど気づかれず、何も言えずに立ち尽くしている私をお母さんは三人に紹介してくれた。 「待ってたんだな……」 お父さんはそう言うとシドの頭を強く擦って歯を食い縛った。それを見たお姉さんはまた激しく泣いた。お母さんはただ黙ってそれを見ていた。 「家族だけの時間を作ってあげよう」 シラギ先生はリビングを出る時、私の耳元でそう言った。私は頷いて、四人に連絡をしてきます、とお母さんに告げてから外へ出た。シラギ先生は白髪交じりの頭を撫でて、 「私は一旦、病院へ戻ります……」 と頭を下げて車を走らせた。そして、私が�爛汽賢瓩髪任圭个気譴新搬咾留嫋修鮓�た時、家の中からお父さんでもお姉さんでもない慟哭が聞こえた。
|