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悔しいけれど、小説を読んで泣いてしまった。 何年ぶりだろう。 読み終わった瞬間、本を閉じて、涙が溢れたことが不思議だった。 一旦溢れてしまったものは止められずに、あたしは静かに泣いていた。 中山可穂という名前は、ちょうど今読み進めているシリーズで見つけた。 最後の新刊紹介のうちの一冊。 女性同士の恋愛。 その言葉に興味をそそられて、ネットで調べてみた。 どうやら著者も同性愛者らしく、ますます興味が出た。 そうなったら、生来の悪い癖。 ネットで出版物全てを一気に取り寄せた。昨日、届いた。 まずは短編から手を付ける。 何だか華を思い出した。 いわゆるタチと呼ばれる側の主人公。 トランスジェンダーではなく、ただ女が好きなだけ。 淡々と語られるにしては、情緒のある文体。 時折、ファンタジックで、反面ではリアルな書きぶり。 「本物」なんだと、分かった。 あたしはどちらかと言えば、バイセクシュアルの部類に入る。 だからこそ、華を眺めるように、読んだ。 その中でも泣いたのは、「花伽藍」の中の短編。 「驟雨」 四十代で出会った二人。 家庭を捨てて、年老いた後には愛する人の介護をするゆき乃。 孤高の姿を持ちながら堕ちて、年老いて全身麻痺になった伊都子。 死へと続く道をゆっくりと歩いていく、年老いた二人の女。 傷付け合い、苦しんで、それでも愛することを止めない。 激しいのは、リアルな部分だ。 死を予感する、互いの肉体の限界の時に、彼女たちは知り合ったヘルパーの青年に懇願する。 ゆき乃は言う。 「あたしにはお葬式もお墓もいりませんからね。棺の中にいっちゃんが描いてくれたあたしの絵を一緒に入れて燃やしてね」 伊都子が言う。 「あたしも死ぬわ。すぐ死ぬわ」 「自殺じゃないわ。ゆきちゃんの心臓が止まるとね、あたしの心臓も自然に止まるの」 「そうなりますようにって、毎日お祈りしてるからね」 事実、二人はこの後に、共に死ぬことになる。 ゆき乃の心臓発作が起こり、伊都子は麻痺で助けを呼ぶことが出来ない。 伊都子の上にかぶさるように倒れるゆき乃。 その身体が、伊都子の喉にも重みになって。 そうして、二人は、息絶える。 どんな結末になってもいい。 二人が共にいられるのなら。 ああ、もう。 どうしよう、華。 あたしは。 あたしはあなたのくれた宝物を一緒に燃やして欲しいと願って死ぬだろう。 あなたはあたしが死んだ後に、自分の心臓が止まればいいと思うだろう。 あまりにも悲しいけれど。 そんな結末が、幸せだと、思ったの。 ねぇ、華。 いつか約束したよね。 しわしわのおばあちゃんになっても、あたしを愛してくれると。 いつもそばにいてくれると。 介護の苦労も、痴呆症の苦しみも、全部全部、受け止めて。 あたしたちも、そうやって、生きていきたいね。 そうして、一緒に死ねるといいね。
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