祖父が今日、突然の発作で亡くなって、 明日の夜に、新幹線で実家に帰る。 記憶の隅にある祖父の顔。 高校生の頃までは、よく見かけていた顔。 あたしは、死に、弱い。 強いひとなんて誰もいないだろうけれど。 誰だって弱いだろうけれど。 言葉を換えてみるのならば、あたしは、死の匂いに弱い。 怖くて怖くて、仕方がない。 死に逝くひと。見送るひと。嘆くひと。 泣くまいとして、故人の面影を語り、笑いさざめく空気。 その、匂い。 あたしは、震えるのを堪えるしか、出来ない。 それが荘厳であるから、とか。 それが悲しみであるから、とか。 そう言うものではなく、きっと、未知への恐怖。 自分ではない、何かに変わるのだという、 天災にも似た、その劇的な瞬間。 誰もが、その一瞬を飲み込んで、 ゆっくり、ゆっくりと咀嚼していくのだろうけれど、 あたしは怖くて、飲み込めずにいる。 ただ思うのは、 祖父がやり残したことは無いのだろうかという、問いかけ。 例えば、明日はコレが食べたいとか。 来週にはあれをしよう、とか。 そう言ったものが永遠に失われてしまった、悲しみ。 あたしは明日の夜に帰省する。 何か、あたしの中でも、劇的に変わるものはあるのだろうか。 しめやかな色彩の中で見送る、祖父の姿に、 あたしは何を感じるのだろうか。 少なくとも今、あたしは、いつか訪れる自分の最期に、 震えるほどの恐怖を感じている。
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