歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2007年01月18日(木) 考えるな、想像するのだ!

先日、テレビを見ているとある有名な寿司職人のインタビューが放映されていました。僕は食通でもグルメでもなんでもないため、寿司業界のことは何も知りませんが、この寿司職人はかなり著名なすし職人の方だったようで、各界の有名人がこぞってこの方の寿司を食べに来るのだとか。自分の店での寿司の値段は時価というぐらいですから、その方の実力が思い知らされるところでもあります。

この寿司職人がインタビューの中で非常に興味深いことを語っていました。

「美味しいと言われる寿司を作るには出来上がった時の寿司のことをイメージしながら作らないとだめだ。漫然と作っていてはいつまで経っても美味しいと言われる寿司は作ることができない。」

どんな業界の方でも極めている方の言われることは共通点が多いなあと感じているのですが、今回のインタビューに出演していた寿司職人のコメントには非常に思い当たるところあります。医療業界でも全く同じことが言えるからです。

僕が研修医時代のことです。僕がある患者さんの神経の治療を終えた直後のことでした。僕の指導教官の一人が僕を呼び出しました。

「君は患者さんの根管治療(神経の治療のことです)をしている際、どんなことを考えながら治療しているのだ?」

思いもしなかった質問に僕は答えに窮しました。そうすると指導教官はこのようなことを言ったのです。

「常に患者さんの治療している歯のことを思い浮かべることだ。歯は前歯から大臼歯に至るまでそれぞれ形が違う。その上に個人差もある。実際に自分の目で患者さんの歯をよく観察し、どのような形なのか想像することだ。そして、レントゲン写真を参考にしながらどのような歯髄(神経のことです)の形をしているかイメージするのだ。まっすぐの形なのか、彎曲しているのか?もし彎曲しているならどのような具合か、立体的イメージを常に持ちながら治療をすることだ。何が何でも歯髄を取るということしか考えていないと、失敗の元になる。常に自分が治療をする歯のことをイメージし、そのイメージを元に治療をすること。これが基本だ!」

総入れ歯の治療をしている時のことでした。僕は患者さんの歯型の模型を持って別の指導教官の下で指導を受けていました。その際、その指導教官は
「総入れ歯を作る際、最も大切なことは何だと思う?それは、最終的にどんな総入れ歯が患者さんに入るか、最終的な総入れ歯の色、形を明確にイメージすることだ。歯型を取る際、噛みあわせを調べる際、人工歯をならべ歯並びを点検する時、自分が最初にイメージしたものと実際に出来上がったものが合致しているかどうかを常に確かめるのだ。何もイメージしないで行き当たりばったり入れ歯を作ったとしても、決して患者さんが満足いく入れ歯を作ることはできない。もし、古い入れ歯があるなら、その入れ歯の長所、短所を徹底的に調べることだ。そして、残すべきところは残す、改善すべきところは改善する。そのような診査、診断ができて初めて新しい入れ歯を作ることができる。初診時、最終的に装着する入れ歯の姿を思い浮かべること。これができるようになれば一人前だ。」

僕の指導を受けてきた先生たちは皆異口同音に治療後のイメージを最初に持つことが大切であることを訴えていました。僕自身、このことが今できているか正直言って自信はありませんが、よりよい歯科治療を提供するために常に最終的な治療完成イメージを持つようにして治療を心がけているつもりです。

かつて、ブルース・リーは出演した映画の中でこんなことを言っていました。

Don’t think. FEEL!(考えるな、感じるのだ!)

ブルース・リーではないですが、理想の歯医者になるためにはさながらこのようなことが極意なのかもしれません。

Don’t think. IMAGINE!(考えるな、想像するのだ!)

あすなろ歯医者の独り言ですが。


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