最近、うちの歯科医院では新しいスタッフが受付を手伝うようになりました。そのスタッフとは嫁さんです。 嫁さんは僕と結婚するまで某中学校の教師だったのですが、結婚を機会に退職し、以降は主婦となりました。結婚してから今まで、我々夫婦は二人のチビを授かったのですが、二人のチビたちが小学校へ行くようになり、少しは時間的な余裕が生まれてきた嫁さん。 多少なりとも持てるようになった時間の余裕はどうするか?いろいろと嫁さんも考えていたようですが、嫁さんとも話をした結果、少しずつうちの歯科医院を手伝うことになったのです。僕自身、嫁さんがうちの歯科医院を手伝うことに関しては、気分的には若干恥ずかしいところはありましたが、嫁さんさえ嫌でなければ手伝って欲しいと考えていました。何せ弱小零細歯科医院であるうちの歯科医院です。人件費をケチるというわけではないのですが、身内で歯科医院を手伝うことができれば、経営的には助かるところがあります。 ということで、少しずつ歯科医院の仕事をするようになった嫁さんですが、新しいスタッフにはそれなりの試練もあります。
僕自身そうでした。新任歯科医師としていくつかの医療機関で働いてきましたが、どの医療機関でも働き始めた頃はいろいろとあったものです。患者さんはもちろんのこと、スタッフである受付さんや歯科助手、歯科衛生士、看護師から時には奇異な目で見られたり、疑問をなげかけられたりしたことは何度と無くありました。 患者さんからは、僕が担当であることを知らされると、不安な声を出す方がいたり、中にはあからさまに僕の診療を拒絶するような方もいたものです。僕自身、何度と無く悔しい思いをしたものですが、これはどんな新人医師、新人歯科医師も一度は経験することでしょう。 この話は何も医療界だけではないでしょう。どんな業界でも新人に対しては風当たりが強い時があるものです。そこを我慢し、自分なりに知識と経験を積むことで自然と周囲から信頼を得ることができるもの。そのためには一定の時間は歯を食いしばって頑張らないといけないこともあるものなのです。
閑話休題、嫁さんの場合もいきなり上記のようなことがあったようです。 先日、受付である患者さんに問診表を書いてもらうようにお願いしたところ、
「以前に来た時に同じものを書きましたけど、もう一度書くのですか?」 とかなり強い口調で言われたのだとか。その調子が、今風に書けば上から目線で言われるような有様だったとか。嫁さん曰く 「何て高圧的な態度を示す患者なんだろう!」
その患者さんは僕の患者さんでした。僕が診療を続けて何度か来院されたのですが、誰から伝え聞いたのか、受付担当が僕の嫁さんであることに気がついたようです。ある診療が終わってから、その患者さんは僕に言ってきました。
「受付の方は先生の奥様だったのですか?私はてっきり独身のお嬢さんだと思っていましたよ!」
独身のお嬢さん?僕はそれは冗談でしょ?と言いたかったものの、受付に嫁さんがいたことを意識し、敢えて言わずに笑ったままにしていました。
診療終了後、嫁さんが僕に言いました。
「結婚して12年経っているけど、独身のお嬢さんなんて言われるなんて思いもしなかったわ。」 このようなことを言っている嫁さんの表情はまんざらでもない様子。 そこで僕は言いました。 「もしかして“どくしん”というのは“独身”じゃなくて“毒針”の間違いじゃない・・・・。」
嫁さんの薄笑いの表情が心なしか怖いように見えた、歯医者そうさんでした。
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