「先生、うちで飼っている犬の顎が突然大きく腫れあがってきたのですよ。」 こんなことを言い出したのは患者さんのYさん。Yさんは長年うちの歯科医院にかかられている患者さんの一人。先日、入れ歯の調整をしていたのですが、入れ歯の調整中、僕に話しかけてきたのです。
「突然、何の前触れもなく顎が大きくなってきたのですよ。私自身、長年犬を飼っていたのですけど、愛犬の顎が突然大きくなってきた経験が無かったものですからびっくりしましてね。獣医さんの所へ連れて行ったのです。そこで、私は思わぬことを指摘されてびっくりしました。」 僕はYさんに言いました。
「もしかしたら、その獣医さんはYさんの愛犬にむし歯があったことを指摘されたんじゃないですか?」 「先生、さすがですね。そうだったのですよ。獣医さんは愛犬の顔を見て開口一番『このワンちゃんにはむし歯があるんじゃないですか?』って言われましたよ。実際に診てもらったらむし歯がありました。それも奥歯にかなり進行したむし歯がありましてね。そのむし歯の周囲から腫れが広がっていたようなのです。」
僕は獣医ではありませんので動物の歯のことは詳しくありません。ただし、知人の獣医や動物関係の本を読んだ知識での話ですが、犬にもむし歯や歯周病が多いとのこと。特に、最近の栄養価の高いペットフードを食べる犬の場合、むし歯や歯周病になる確率が高いそうなのです。そのため、食後の歯磨きが欠かせなくなってきているそうなのです。犬用の歯ブラシが販売されているくらいで、犬が小さい頃からのしつけの一環として犬にも歯ブラシによる歯磨きをすることが飼い主には求められているとも言えるのだとか。 ちなみに、田舎の野犬にはむし歯や歯周病は見られないのだとか。こういったところからも、犬のむし歯、歯周病というのは人間と同じで一種の生活習慣病と言えるかもしれません。
「むし歯や歯石除去などは全身麻酔をかけて治療をしたのじゃないですか?」 「そのとおりです。人間であれば話せばわかるのですけど、相手は犬ですからね。歯の治療を施そうとすると全身麻酔をかけないと何もできません。そのため、私の犬の場合も全身麻酔をしましたよ。それで、むし歯の歯を抜歯してもらいました。抜歯したのを診て、改めてむし歯の大きさにびっくりしました。こんな大きなむし歯になるまで放っておいたのは飼い主の責任だと痛感しましたね。犬には悪いことをしたと反省しています。幸い、手術をしてからは顎の腫れもきれいに元通りになりましたよ。そして、腫れと同時になくなっていた食欲ももとに戻ってきました。犬も歯が命なんですね。そのことを実感しましたよ。」
|