☆空想代理日記☆
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気がつけば暑さも過ぎ去って、高校最後の夏を連想させる淋しさが漂っていた。
あんなにたくさんの蝉が「がんばれ、人間」と励ましてくれていたのに、がんばれないまま蝉は朽ち果てていった。
何かを忘れた感じのする昨日だった。
この夏に忘れたことといえば、真夏の甲子園球場に忍び込んで、甲子園の土を盗んでこなかったことがあげられる。盗んだ土のかわりに、悪者たちが笑顔でアイスの汁を染み込ませた不逞者の母校の土を持っていくはずだった。
そんなふうに夏を振り返ると、いつもより夕陽があかいような気がした。それを友人に言ったところ、
「信号、青にかわったよ」
とだけ言って友人は携帯電話をぴこぴこしていた。
不逞者にも夏の終わりを感知する機能があることがわかる。その証拠に、トラックが右折する時「右へまがります。右へまがります」と喋るのだが、いちいち「はい、どうぞ」とこたえたからだった。
トラックからは女性の声が流れるので、不逞者の女性に対する優しさを披露したのだった。なぜか背景には秋の空。
もしあれが「右、右なんだけど」だったら、確実に無視するのである。
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