今日はおじいちゃんのお葬式だった。 11時からだったから、妹を迎えに行って、朝9時半に出発した。
じいちゃんは老人ホームにずっといて 11月に容態が悪くなったときも 親戚と連絡が取れなくて 私が検査に連れてったから お葬式って言っても、誰か来るのかなと思ってたら 総議場には20〜30人の人がいた。 妹も言ってたけど私もエキストラかと思った。 でも違っていて、全部、正真正銘、じいちゃんの親戚だった。 兄弟とか。
っていうか、っていうか、よ。 あんたたちさあ、死んだって聞けばこんだけ集まるくせに 死ぬ前は一度も、たった一度も、 お見舞いになんか、来てないじゃない! 老人ホームの人だって、私たち姉妹以外は 入所からずっと誰も会いに来てくれてないって言ってた。 それが、よ。 なんで葬式だとこんなに集まれるわけ? 生きてるときはほったらかしのくせに 死んだらくるわけ? なんなの。
じいちゃんの妹というガイコツみたいなおばあさんは 「間に合ってよかったね」って私たちに言った。 っていうか、は? 何が? 間に合ってませんが。 死んでるでしょうが。 何に間に合ったわけ? 「お別れを言ってあげてね」だって。 聞こえないでしょ。 死んでるんだから。 息を引き取る間際にお別れを言うならわかる。 もう変わり果てた姿で、死んでる。
棺の中のじいちゃんを見て 「こんなに痩せてねえ、写真と全然違う」 なんて、みんな口々に言った。 遺影の写真はいつのものかと思うほど昔のもので じいちゃんは、もう1年前から、ずっと痩せてる。 あんたたち、どんだけ会ってないの?と思った。 そしてしらじらしく 「こんなになってねえ。お別れを言ってあげて」だって。 よくもしゃあしゃあと。 涙も流さず、まゆをひそめて悲しそうな顔だけ作って 「あらあ」とか「まあ」とか 「かわいそうに」とか「痩せたねえ」とか言ってる。 この人たち、人の死体見るの、慣れてるのかなと思った。 じいちゃんの死に顔は 生きてるときとはあまりにも様子が違いすぎていて 私にはとても直視できない姿だったから。
もう頭にきて頭にきて 腹が立って腹が立って仕方がなかった。 悲しいとかより、悔しくて歯がいくて わあわあ泣いた。 何もしなかった自分にも腹が立った。 だから、私のみんなに対する憤りは 八つ当たりだったかもしれない。
ガイコツばあさんたちは 私がじいちゃんが死んで悲しんで泣いてると思ってたみたいだけど それは違う。 あんたたち、よくもそんなしらじらしいこと言えるよねって 文句を言いたかったけど言えなくて がまんしてこらえきれずに出た涙よ。 誰もじいちゃんに「ごめんね」って言わなかった。
じいちゃんの死に顔はミイラのようだった。 骨と皮だけになってた。 あまりにも変わり果てた姿で 顔を見た瞬間、私は座り込んで泣いた。 立てなかった。 ガイコツばばあは 「ほら、お別れを言ってあげて。 頬をなでてあげて。もう最後だからね。 顔をよく見てあげて」と言った。
このばばあ!!!どの面さげてそんなこと言えるんだ!!! ガイコツばばあはちっとも悲しそうな顔もしてなくて なんともない顔をしてた。 あんた、よくそんな普通に見てられるね。 私は逆にすごいと思うよ、そういうあんたたちがね。 しらじらしくてびっくりするよ!!!と思った。 誰がこんな顔になるまでほっといたのよ。 誰が口をあけたままで死なせたのよ。 なんでこんな死に顔なのよ。 恥ずかしくないの? 私はじいちゃんに会わせる顔がないよ。 こんなになるまでほっといて、ごめんねって思って 会わせる顔なんて、ないよ。
ガイコツばばあから両脇を抱えられて 無理やり棺を見せられたから もう悔しくて、悔しくて その場にいるみんなに聞こえるように 「こんなになるまで、お見舞いも行かずに ほっといてごめんね、 じいちゃん、ごめんね、ごめんね。 何もできなくて、ごめんね」って 何度も何度も謝った。
その後は、悔しくて泣いた。
苦しんだ様子はないけど 誰も看病してくれなかったんだな、 誰もそばにいてくれなかったんだな、 ひとりぼっちで死んだんだな、というのはわかった。
老人ホームの人からは じいちゃんの妹さんに連絡がついたから その人が面倒を看てくれるからって聞いてた。 家だってすぐ近くなのに このガイコツばばあは、ほっといたのよ。 血のつながった兄弟なのに。 近くにいるのに。
私は私でお見舞いにも行かなかったわけだから 人のことは言えないけど 前に会社を休んで検査に連れて行ったときだって このガイコツばばあに連絡が取れなかったから 老人ホームの人が私しか連絡がつかずに 私に頼んだわけよ。 でも、お葬式ならこうしてすぐ連絡がつくんでしょう? ガイコツばばあが一声かければ 20〜30人、葬式に呼べるわけよ。 どうなってんのよ。 それで 「こんなになってね。かわいそうに」だなんて 聞いてあきれる。 ほんっと他人事なんだね、と思った。 テレビや新聞のニュース見てるんじゃないんだよ? 身内が亡くなったんだよ?って思うほどだった。
火葬場まで一緒に行く?って聞かれて 私は「母のお墓参りをするので、これで失礼します」と 泣きながら答えた。 妹は火葬場まで行きたかったみたいだけど 理由はその場で話さずに とにかく行こうとだけ行って、車に乗せて 車の中で泣きながら妹に歯がいさをわめきちらした。
火葬が終わるまでの待ち時間に あんな偽善者たちのたわごとを聞いてたら がまんできずにぶちきれるから とても行けそうにはない、ごめんね、と伝えた。 妹もわかってくれた。
そのあと、お世話になった老人ホームに 菓子折りを持って挨拶に行った。 お世話になりましたとお礼を伝えた。 他人だけど、この人たちのほうが ずっとずっと親切だった。 じいちゃんのことを親身になって面倒看てくれたし 私たちにも「おじいちゃんも喜んでたよ」と 遠いとこからきたことにお礼を言ってくれたりしてた。
それからお母さんのお寺へ行ってお参りをして ファミレスでご飯を食べて帰った。 ファミレスはバイトしてる店の支店で この間移動になった副店長がいるお店。 久しぶりに会えた。 副店長研修生Mのことを話してすっきりした。 やっぱりあいつは大変な問題児らしい。
それはそうと とにかく、今日はいい勉強になった。 血のつながりがあっても あてにならない。 近くて遠い他人だ。
他人のほうがよっぽど親切なこともあるもんだ、と思った。 人間関係や親戚づきあいの難しさを痛感した。
じいちゃんも良くなかったとは思うよ。 自分が一人身で、いつか自分が死んでしまうことはわかってたんだから 前もって親戚に連絡をして 何かあったときは頼む、と頭を下げておくべきだったと思う。 どういう付き合いをしてたのか 私にはわからないし いまさら知る必要もないけど とにかく、すごく驚いた。
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