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■ Final:シュウスケ��
会話の背後で鳴るような雨の音。奏でられない音色。わりと悪くない。
歩道を歩く俺達の横を、車が行き交って過ぎて行く。
「俺が帰ってないってよくわかったな。家に行ったのか?」
「じゃないけど。…ほら、部屋、電気点かなかったから」
広げた傘は俺が普段使うものとは違っていたし、家にあるものとも違うようだった。マヒロの父親の顔が浮かぶ。
それから僅かに苦く笑う。部屋に電気が灯らなかったことを知っているのは、ずっと見ていたと言うことと同じだからだ。笑った俺を見て意味に気付いたらしく、マヒロが慌てる。
「え…と、別に覗いてたとかじゃないんだからね」
「何も言ってねえよ」
隣を見れば顔が赤い。不快に思ったわけじゃなかった。ただ何となく想像が出来た。窓辺に座り込んで、俺の部屋を眺めているマヒロが。想像の中のマヒロは隣を歩くマヒロとは別人のように儚い。いつか、月のようだと思ったように。
だが、こいつは俺が思うよりずっと、強くて。俺なんかよりも。ずっと。守ってやらなきゃって、思っていたはずなのに。
「あ、あのさ、」
間が空いたのを埋めるように、マヒロが立ち止まる。
「なに」
だからそれに合わせて、同じように歩みを止めた。住宅街に入れば、車の姿は途端に消え、静かになった。路上に人の姿はなく、ところどころ明りの灯る家々が並ぶばかりだ。
「日曜って、さ。デート、みたいに思っても…いい、の?」
ふわりとした髪がマヒロの顔を覆う。恐る恐るといった様に見上げる瞳。手を伸ばせば触れ得る距離。あの時伸ばさなかった手を、ゆっくりと伸ばす。 指先に髪が触れる。それを摘まみ上げれば、マヒロの肩が揺れた。
顔を近付ける。眼鏡を取った俺を、マヒロはじっと見ていた。
「俺はそのつもりだけど」
聞こえたかどうかはわからなかった。心臓は煩くない。頭の中も心の中もひどく静まり返っていた。なのに手足の先がやたらと冷たくて、感覚がない。ただ、重ね合わせた唇だけが、やけに熱いと思った。
「……っ」
マヒロが何か言おうとした。でも離さない。
髪が濡れる。
気付けば傘を手放して、腕の中にマヒロ抱いていた。
2008年06月19日(木)
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