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■ Final:マヒロ��
本当、シュウスケは勝手だ。あたしの気持ちを、好き勝手に揺らせてくれる。振り子みたいに、ゆらゆら揺れる感情。好き。でも、好き。
「…マヒロ、」
立ち止まって何かを言いたそうにするシュウスケを置いて、あたしは歩みを進める。ぎゅ、と目を瞑って。深呼吸。「したかったから」なんて、なんて身勝手な理由なんだろう。
それなのにあたしの中には、怒りや恨みがましい気持ちはひとつもなくって。馬鹿みたいに好きだという気持ちしかなくって。溜め息つきたくなるくらい、それしかなくって。
「さっさと帰って着替えねぇとな」
気づけばいつのまにか立ち止まっていたあたしの前に、シュウスケが立っていた。その表情は憂いもなければ、逡巡めいた色もなく。なんだか妙に納得したみたいな、そんな目の色をしていた。
あんなこと――しておいて、どうしてこんな。こんなに普通にいられるんだろう。あたしは、こんなにどきどきしてるのに。だってそうだ。好きだって知ってるくせに。どうしてこんなこと。ただの幼馴染なら、キスなんて。
…ただの幼馴染なら。
しっとりと首筋に張り付く髪。ぴちゃぴちゃと水が跳ねる足音。依然として人影はなくて、ざあざあと激しくなった雨音だけ。息苦しいのは、呼吸が浅くなるせいだ。傘の柄を持つ手に、自然と力が篭る。
「…誰も帰ってないみたいだね」
着いた家を見上げれば、相変わらずシュウスケの家に明かりはひとつも灯っていなかった。
「――みたいだな。傘、助かった。明日返すから」 「い、いーよ、そんなのいつでも」
あんなことした後なのに、いつも通り話すシュウスケ。それに釣られて、つい笑みを浮かべた。嫌われたり避けられたりしたくないって思いが、あたしをそうさせてるんだと気付いて、少し自己嫌悪に陥る。
そんなあたしを気にかけることなく、シュウスケは玄関の鍵を開けようとしていた。なんとなく別れの台詞を言い出しにくくて、とりあえず自分の家に帰ろうと隣の玄関に向かう。「あ」その声に、振り返る。
少し濡れた前髪を鬱陶しそうに掻き上げてから、
「着替え終わったらカーテン開けてて」 「カーテンって、どこの…?」 「お前の部屋の」 「どーして?」
首を傾げるあたしに少し笑いかけてから、「いいから開けてろ」と言ってシュウスケは開いた扉の中へ消えた。
◇
服を着替えて、髪を乾かす。本当はシャワーを浴びたかったけれど、シュウスケが言ったことが気になって、ゆっくりお風呂に入る気にはなれなかった。
半ば焦りに似た気持ちで、ドライヤーの熱風を髪にあて整える。鏡の中のあたしは、どこか泣きそうな顔をしている。ドライヤーを止めて、顔を洗いに階下に降りる。洗面所の冷たい水で二度、三度と洗ってから、もう一度鏡を見る。大丈夫。
それから部屋に戻って、言われたとおりにカーテンを開ける。
「…っ、」
開けた窓際に立っていたシュウスケと、目が合って固まってしまった。相手も唐突だったことに驚いたのか少し目を見張ってあたしを見た後、苦笑しながら窓を指差す。開けろということだと察して、鍵を外した。
2008年06月22日(日)
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