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■ Final:マヒロ�ぁ淵薀好函�
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目を開ける。明るい。朝、と認識して起き上がった。正面の窓に目をやる。閉じられたカーテンから、差し込む光。
色々な夢を見た。と思う。何となく思い出したくて、その映像の端っこを掴もうとしたけれど、するりと掌から零れ落ちて、どれも粉々になって消えた。
とても、静か。日めくりのカレンダーをめくる。今日は、日曜日。シュウスケと、初めての。何を着ようか、と迷ってクローゼットの扉に張られた鏡を覗き込む。相変わらずのあたし。でも、どこか楽しそうに見えた。
時計を見れば、午前七時を差している。顔を洗って、朝ごはんを食べて――それから。
「なーにマヒロちゃん、珍しい」
ハルちゃんが驚いた声を上げるほうが、よっぽど珍しい。勝手にホースを引き出していたあたしは、ゆっくりと振り返る。淡い朝日に包まれた景色の中で、白っぽいハルちゃんが真っ黒の服を着て立っていた。
朝日が映えて綺麗。とか言ったら、何て言うかな、と考えたけど言わないことにした。男の人に綺麗という形容詞は、誉め言葉じゃないような気がする。
「お花。水、あげてみようかなって思って」 「それも珍しーよね。どーゆー心境の変化?」 「…そんな大したことじゃないもん」
前に向き直ってシャワーヘッドに手をかける。 シュウスケなら「似合わない」ってきっと呆れるに違いない。
前に見た薄桃色のバラが、幾つか丸くて可愛らしい蕾を付けていた。 マチルダ、だっけ。花の名前なんてすぐ忘れちゃうあたしだけれど、その花の事は覚えていた。
一般的に可憐、と言われるような姿。あたしも、こんな風になれたらいい。この花のように。優しい色になれたらいい。
「ハルちゃん」
振り返らずに呼ぶ。
「んー?」
間延びした返事。さっきより少し声が遠くなったのは、家の周りを掃除しているのかもしれない。
「ありがとね」
言ってから、聞こえなかったかもしれない、と思った。振り返ろうとすれば、頭に大きな掌が降った。
「なーにが?」
真上を見上げる。手が離れ、くしゃりと笑う、ハルちゃんの白い顔が見える。人懐こい笑顔に、釣られて笑う。立って見下ろしているハルちゃんと、しゃがんだまま首だけ上に向けてるあたし。お互い微笑みあって、傍から見ればきっと変な構図だ。
「言ってみたかっただけ」
ありがとう、なんて一杯ありすぎて、どの『ありがとう』かもうわからなかった。
蛇口を捻る。
きらきらして冷えた水が、細かな霧状になってノズルから出てくる。濡れないように腕を花壇に伸ばした。
「嬉しいんでしょ。花に水あげよっかなーって思うくらい」
唐突にハルちゃんが言う。何のこと、なんてハルちゃんの前ではきっと無駄だ。だから花壇を向いたまま、
「うん」
雨に近いような音を立てて、水が花壇の縁を濡らす。
「…そ」
また頭に乗せられる手。シュウスケとは違う、温度。でも安心する。その掌が髪を少しだけ梳く。優しい。
「マヒロちゃんなら、俺、シュウを安心して預けられるかなぁ」
どこか安堵したような、ハルちゃんの声に、何故だか振り向けなかった。
「ハルちゃん、…おとーさんみたいなこと言ってる」
笑おうと思ったけれど、上手く唇が動いてくれなくて途中で諦める。振り返ったら、動いたら、たぶん泣く。優しい優しい掌が、あたしの頭を何度も撫でるせいで。
「あの子、ややこしーけど」
手が離れる。玄関のほうで音がする。誰か出てくる、と思ったところで。
「面倒見てやってね」
ハルちゃんが耳元でそう言った。
かちゃり、と音を立てて、目の前にある玄関の扉が開いた。シュウスケが顔を覗かせた。
「さっきから何やってんの? 来てんなら上がれば」
いつも通りの愛想のない声。ホースを持ったままシュウスケを見上げて止まるあたし。さっきから、ということはあたしが来てたことを知っていたらしい。
「早くしろよ」
不機嫌そうにこっちを見やるシュウスケ。
「なに、シュウ。妬いてるの?」
ハルちゃんがからかうような目で、シュウスケを見る。
「別に」
ふい、と逸らされる目元に、あたしは自然と笑みが浮かぶ。
「行っておいでよ」
ぎゅう、とホースを握り締めたあたしの手を、ハルちゃんがやんわりと外させる。開かれた扉。立ち上がったあたしは手を伸ばす。
不思議そうな顔をしたシュウスケが、あたしの手を取って眉を顰める。それから呆れたように少しだけ笑った。でも繋いだ手は離されない。
「マヒロ」
シュウスケがあたしの名前を呼ぶ。いつか先輩を呼んでいたような、声で。あたしを見る。いつか先輩を見ていたような、目で。
それだけで充分。だと思った。
【END】
********** 終了です。 長々とお付き合いありがとうございました。 若干訂正が入ったのち、サイトへ掲載したいと思います。
2008年06月24日(火)
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