無残だよ! - 2008年01月01日(火) 「○○町○○地先、国道○号線上、○○号車増強指令!」 食事中だというのに・・・・ しかし、この増強指令は入電時とは違って、 先着救急隊からの応援要請である。 あせる心を落ち着かせ、ヘルメット、携帯無線機を携行しつつ指令書に目を通す。 国道での交通事故。 状況不明確なまま救助工作車に乗車する。 隊員を確認後、『出動』のAVM操作 ・・・ と同時に先着救急隊からの状況報告が入る。 『国道○号線、信号機のある交差点、軽乗用車と普通貨物自動車の衝突事故。 折れた信号機と普通貨物との間に大破した軽乗用車があり、軽乗用車の運転手が閉じこめられている模様。 なお、要救助者にあっては、ST・・・・・』 まいった! しかし、ここで弱音を吐いたら隊員たちの指揮に影響する。 指示を出さねば! 先着隊の状況報告をもとに、使用資機材の指示。 機関員には、事故車両の直近に部署を命じる。 現場に近づくにつれ、大勢の野次馬が視界にはいる。 そして先着隊の赤色灯が ・・・・と、その時、左前方には大破した軽乗用車にもたれ掛かるように折れた電柱・・・ 軽乗用車と同化しているように普通貨物が重なって・・・・ 要救助者の状態が気になる! 隊員に車両部署位置を指示、即座に事故車両に急ぐ。 あゝ・・・・・。 声にもならない。 意識があれば『大丈夫ですか? すぐに救出しますから、頑張って下さい!』って励ますのに、励ます言葉も失ってしまった。 無惨だよ! 要救助者にシートを覆い保護する。 こんな姿、野次馬に見せてはならない。 ましてや、今家族には・・・・・ しかし、私たちは救助隊員! このまま放置するわけにもいかない。 医師に診せるまでは・・・ 救出方法を考察する。 開口部を設定するには・・・どうしたら? 信号機は折れてなおも点灯し、撤去出来ない! 救出箇所は、どこだ! 事故車両を一周する。 目線にはない。 どこだ! 下だ!下からの救出だ! 隊員への指示がとぶ。 まだ隊員には要救助者の状態は目に焼き付いていないはずだ。 確認呼称!声を出せ! 「運転席ドア、蝶番の切断! 切断機及びスプレッダーの用意!」 「消火器準備!」 隊員の返事が返る。 「よし!」 いつもより頼もしい声だ! 隊員に勇気づけられた感じだ。 間髪入れず、消防隊には、タンク水での注水準備を指示し二次災害防止を図る。 「エンジン始動!」 「下部蝶番、切断開始!」 「切断よし!」 「上部蝶番、切断開始!」 ここで、上下の蝶番が切断された。 「ピラー切断!」 「ピラー切断よし!」 「スプレッダー用意!」 「ドアの開放!」 「ゆっくり、ゆっくり、停止! 当て木設定!」 すごい力だ! この切断機は重量こそあるが、力はあなどれない。 金属の切断音は不気味で恐いものがある。 力をかけた反対方向に力が及ぶ。 これも二次災害の発生要因だ。 そして、圧迫部分の解放には特に注意を要する。 圧迫部分の急激な解放は、血液が一気に流れ出すためショック死を起こす可能性があるからだ。 私たちは救助隊員としてのプロだ。 負傷程度を加重させてはならないことは百も承知だ。 「ゆっくり」ということも最適手段だ。 全てに対して“早い”ばかりが最良ではない。 時として“遅延”ということも最適な救出方法で、これが迅速さにつながるのだ。 この時点で、要救助者を救出可能な開口部の設定ができた。 「当て木、設定よし!」の合図とともに、「要救助者、確保!」 隊員たちは、要救助者の姿を目のあたりにしても怯むことなく、抱える。 救助服は血だらけだろう。 それでも隊員たちは、自分たちの使命と誇りで任務にあたっている。 この要救助者から「ありがとう」という言葉ももらえないのに・・・・・ そして、「がんばれ!」という励ましの言葉もかけれないまま抱きかかえる。 「足部、出た! ゆっくり、ゆっくり。腰部、確保!」 「担架、用意!」 待機している救急隊員は、即座に担架を用意する。 「救出完了! 撤収!」 追記 私たち救助隊員は、このような現場ばかり見ています。 そして、その現場は母親の泣き叫ぶ声で修羅場とかしていたり、自分の家族とだぶったり・・・・・ でも、感情に左右されていたら冷静な判断はできないし、二次災害の発生にもつながる。 冷酷かもしれない。でもそれは、隊員を預かる私の使命でもある。 隊員を死なせるわけにはいかない! そして、隊員たちに、自分の手で人を助けることの喜びを教えてあげたい。自分の手を差し出せば、その人は助け出せる。そして、助け出したときの満足感を! 私たちは、真剣です! −合掌− ...
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