檜の露天風呂の縁に並んで座って
彼と話をしました。
簾の向こうには灰色の冬の空と白い河が見えます。
「温泉に行ってもなかなかこうやって
二人でお風呂に入れる所って無いよね。」
彼が言いました。
「温泉行きたいなぁ。」
「いいよ。いつかね。」
「ね、近い所でいいから旅行に行きたい。」
「そうか。じゃあ行こうか。」
「ん、ね、指切り。」
ほとんど無理やり彼と指切りをしてしまいました。
彼は優しく笑っていたけれど。
指切りしながら思いました。
この約束はきっと果たされないだろうと。 これは女の直感なのでしょうか。
それともあの人との別れのトラウマなのでしょうか。
でも、彼との時間が幸せであればあるほど、
きっとこの幸せはいつか消えてしまうと思うのでした。
彼が湯船から上がる時に
一緒に出るのが恥ずかしくて後に残っている私に言いました。
「そこ、上がる時に気をつけろよ。滑るから。
本当にそそっかしいんだから。」
彼は誰にでも優しい。
先日行ったおでん屋のおばあちゃんにも
すれ違う小さな子供にも。
私は彼のそんな公平な優しさが好き。
彼の特別な愛を貰えなくても
彼の周囲に分け隔てなく与えられる優しさの中にいられれば、
それでいいと思えるのでした。
昨日は彼に会えない週末でした。
別れたあの人の言葉がトラウマになって
時々悲しみで胸がいっぱいになります。
7年も一緒にいたのにあの人との恋は終わりました。
美しさのかけらもない無残な終わり方でした。
落としたガラスのグラスのように粉々に砕けた7年の恋は、
始まったばかりの彼との恋にも悲しい影を落としています。
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