牡蠣料理のお店で食事を済ませた後、
彼がテーブルでお財布を出したので、私はすかさず、
「Tさんのお財布の色、黒ですよね。」
と言いました。
勘のいい彼はすぐに私の意図を読んだ様子で、
「おかしなこと考えてないよな。」
と鋭い声で私に聞きました。
実は今月末の彼の誕生日に私はお財布をあげようと考えていました。
「俺、財布とか要らないからな。」
彼の言い方があまりにもストレートだったので、
正直私は困ってしまいました。
彼はダンヒルの長財布の中を見せてくれました。
「俺、財布とかいっぱい持ってるんだよ。
二つ折りのとか使ってないやつ。」
彼が気に入っているというその長財布は表面は綺麗でしたが、
内側のカード入れの部分は結構傷んでいるように見えました。
「同じダンヒルのものだったらいいでしょう?」
「ここにファスナーが付いてないのは嫌だし、
カード入れの数とかこれだけないと嫌なんだよ。」
「じゃあ、同じ数だけカード入れがあればいいですよね。」
彼は覚えていないようでしたが、
以前にもお財布について同じようなことを言っていて
私はそれを覚えていたので、
その時の彼の言葉を参考に私は既にデパートなどで
紳士用のお財布を見ていました。
「俺、着るものとかの方がいいよ。」
彼が言いました。
「でもセーターとかは着てみないとサイズが分からないでしょう。」
ブランドやデザインによってサイズが異なる彼の洋服を選ぶことは、
お財布を選ぶよりも私にとって難しいことでした。
きっと彼は安いお財布は貰っても使わないことになるし、
かといって高価なものは私に負担がかかると考えたのでしょう。
思わず絶句してしまった私。^^;
「まぁ、後は店を出たら話すから。」
と彼が言いました。
お店を出てからワインバーまで15分ほど歩きました。
「さっき、何て言おうとしたんですか?」
「俺、物貰うの好きじゃないんだよ。」
誕生日にはプレゼントを渡したいから会おうと既に約束しているのに、
いきなり彼はそんなことを言い出しました。
「うん、Tさんは私から何か貰ったり、
私にお金を払わせたりするのが好きじゃないことは知ってます。
でも、いつもご馳走になったり、
旅行に連れて行ってもらったりしているから、
一年に一度位はプレゼントしたいの。」
私の言葉に納得したのか、急に彼は大人しくなりました。
「プレゼントするから結婚してなんて言わないから大丈夫ですよ。(笑)」
「そんな風には思わないけどさ。」
大きな交差点を渡る時、彼はいつものように手を繋いでくれました。
翌日、彼と電話で話をしました。
「昨夜あんまり動いたから、身体の節々が痛いです。」
「俺は大丈夫だよ。もっと鍛錬しないと駄目だろう。^^」
「きっと私の方が動いたからですよ。」
「おい、それは無いだろうが?(笑)」
「来週はTさんの方がいっぱい動いて下さいね。^^」
「それはその時になってから考えよう。^^」
「誕生日のプレゼントのことだけど、
私、やっぱり私があげたいものをあげますね。
絶対Tさんが気に入ってくれるものをあげますから。^^」
「うん。」
「昨日、Tさん色々言ってたじゃないですか。
ファスナーが付いてて、カード入れが10枚分なきゃ嫌だとか。
私、Tさんが言ったことをちゃんと覚えていて、
家に帰ってから全部メモしておきましたから。」
「あはは、そうか。^^」
「私、この件に関しては半年前からリサーチしてるんです。^^」
去年は付き合い始めだったので、
手頃な値段のものを気軽にプレゼント出来たけれど、
二回目以降のプレゼントを選ぶのは結構難しいと思いました。
「ねぇ、好きですか?」
前日のベッドの中で何度も聞いた言葉を私はまたおねだりしました。
「好きだよ。大好き。^^」
電話を切ってからも、
彼の甘い声がしばらくずっと耳の奥に残っていました。
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