2009年11月02日(月)...失意は幸福の紛物

 安堵と後悔の入り混じった幸福に包まれたまま、沸々と煮立つ脳味噌を枕へと押し付けた。横目で見遣った腕には、生まれては潰れる紅い泡沫が幾本も筋を作りタオルを染めている。厄介と達成感が入り混じる恍惚に雁字搦めで、指の先ひとつ動かす気にもなれない。肺を満たす匂いに顔をしかめた。
 落下する筈もない、其の“当たり前”を覆す感覚が身体を支配して、あの、嫌々に押し切られて乗ったアトラクションよりも遥か速いスピードで、急降下している。恐怖とどうにでもなれ、が交錯して、きつく眼を鎖した。ぐにゃぐにゃと蠢く蛍光色の蚓が、羽虫に為って弾けては、また、再生を繰り返している。
 左腕がじん、と熱くなってちりちりと燻る炎が全身を焦がした。むず痒さを上回る温もりと満足感が目蓋の裏に明るさを取り戻して、暗闇の底から這い出るエメラルドグリーンの川端にオレンジの島が浮かぶ。嗚呼、もう、如何でもいい、そんな、喜びを噛み締めたまま、もぞもぞとタオルケットを手繰り寄せた。「おやすみ、なさい」。

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