受話器を取った途端。 怒鳴り、声。 それから……。 ナミダ声。
故郷に住む、オネエチャン。 故郷に住むハハや兄姉を繋ぐ携帯の。 電源を落としてもう数ヶ月。 家電も、解約して、また新たに番号を取ったのだけれど。 知らせないまま。 アタシが連絡を入れないのは、演技することにも疲れたから。 も、精神より肉体が、疲弊して音を上げてたから。
どうしても連絡がつかないから、と。 元夫の携帯に電話をしたらしい。 手術の日、元夫の携番を聞いておいて良かった、と。 ナミダ声で叱られた。
「帰っておいでよ……」
アンタひとりの面倒くらい、オニイチャンとふたりで見てあげるよ、と。 病気を知らないハハにも、これをキッカケにウソをつかなくてもよくなるよ、と。 でも。 でもね、オネエチャン。 アタシは帰れないよ。 逃げだせないよ。 病気は誰のせいでもナイけれど。 アタシは立てる限り、ジブンの足で立っていたいんだよ。 もうその役割をほとんど担っていないけれど。 アタシもハハの立場。 それを捨てるコトなんてできないよ。
故郷には。 帰りたいけれど……。 のど元まででかかった言葉を飲み込んで。 ごめんね、と。 ポツリ。 受話器の向こう。 ため息が聞こえる。
ごめんね。 もういち度。 3人兄姉、年子。 でも覚えている限り、いち度もケンカしたコトがナイ。 幼い頃も。 ハハも認める、仲良しこよし。 それは。 オニイチャンとオネエチャンが優しくて。 だからアタシは素直な妹でいられたから。
その素直な妹を。 今、捨てる。 いつまでも、大好きな。 オニイチャンとオネエチャンだけれど。 今回は言うことを聞かない。
本当に、ごめんね。
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