てくてくミーハー道場

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2008年11月22日(土) 『江戸宵闇妖鉤爪ー明智小五郎と人間豹ー』(国立劇場大劇場)

ずいぶん国立劇場に行ってない(先月の『大老』には必ず行こうと思ってたのだけど、前売りも買わずに千龝楽に行ったら入れなかった・・・甘く見たバチだ/涙)

久々に観たのがこのような変化球公演だったが、意外と掘り出し物というか、実に面白かった(だが正直、再演するような気はしない←おいっ!)

ソメソメ(市川染五郎)、上出来だった。

この作品を企画したこと自体も上出来だったし、演者としても上出来。

体が良く動いていた。役の性格的なものも似ていたからかも知れないが、なんか、かつての(スーパーカブキを一所懸命やっていた頃の)猿之助に近いパッションを感じた。





原作は江戸川乱歩の『人間豹』

正直、知らない作品でした。

あの有名な『黒蜥蜴』と同時期に書かれた作品らしいのだが、向こうは、かの三島由紀夫が脚色した芝居の素晴らしい出来のおかげで(←乱歩先生に大失礼発言)、かなりの人気作ではないですか。

でも、こっちは相当な乱歩ファンじゃないと知らないんじゃないか? と思われる作品なのではないか?

ぼく自身、あんまり乱歩を読まないので、この『人間豹』という作品が、ファンの間ではどの程度の人気なのかも全く知らない。

だいたい、タイトルがおかしくないか?『人間豹』って。(ん? なぜに?)

『豹人間』じゃないの? 正確には(それじゃ『仮面ライダー』に出てくる怪人だろが)あっ、そうか(^^ゞ(←自己解決)



とにかく、まっさらな状態で芝居に臨みました。

読後感ならぬ観劇後感は、

「あれ? なんか、『オペラ座の怪人』に似てるなあ」

でありました。

むしろ、「和製『オペラ座の怪人』」と言ってしまっても苦しゅうないのでは?(いい意味で)と思った。



生まれながらにまともな人交わりのできない男が、次々に猟奇殺人を犯す。

そして実は、恐ろしい犯罪者である恐ろしい姿の怪人よりも、もっと恐ろしいのは、われわれ人間の差別心・・・みたいな。(←身も蓋もない独断)

言わば、ベタなラブロマンスのロイド=ウェバー版ではなく、ヒューマンドラマ的なコピット&イェストン版に近い感じ。

『オペラ座の怪人』も、原作は単におどろおどろしい怪奇ミステリーであって、「ファントムを作り上げてしまったのは、我々なのだ」みたいな御高論は、ミュージカル化された時になって初めて出てきたものである。


今回の作品も、原作の『人間豹』は、ただひたすらおっそろしい凶暴な“豹男”と、知的でスマートな我らがヒーロー・明智小五郎とのサスペンスに満ちた対決に終始しており、「世間は獣の姿をした人間豹を恐ろしがるが、人間の姿をしながら獣の心を持っているヤツらは、この世にごまんといる。そいつら方がよほどタチが悪いんじゃないのかい」みたいな哲学的なセリフは、脚色に際して付け加えられたものらしい。

そんな意味で、今回のこの戯曲化は、むしろ大々的なファンタジー化に成功していたと思う。

「ああ、わかるわかる」みたいな感じだった。

乱歩がこの作品の舞台にしたのは、昭和初期の東京。生活が「ハイカラ」になり、西洋文化を享受しながらも、昭和の大恐慌の後遺症が残り、もうすぐ日中戦争が起こるという、享楽的でいながらどこか不穏な時代。

歌舞伎化にあたって、舞台として選ばれたのは、尊王攘夷運動が吹き荒れる動乱の江戸末期。

そして、現実にこの芝居が上演されている現代は、「不況」という言葉にもう人々がうんざりしていて、自殺や、ありえない理由での無差別殺人などが頻発し、人の心が迷走している時代。

この三つの時代に共通する、「人々の心に、知らず知らず『不満』と『不安』という二つのマイナス要因が、少しずつ積っていってる」──そんな気味の悪さ。

そんなマイナス要因が、「怪人」じゃなかった(わざと間違えたな?)「人間豹」を作り出した──そんなことを制作者たちは表現したかったんだろうな、というのが、ストレートに伝わってくる作りでした。

“人間豹”恩田乱学は、ストーリーの中では「生まれつき人間と豹のミックス」みたいな、遺伝子学的にありえない存在として描かれているんだけど(いや、そうじゃなくて、赤ん坊の頃に、むりやり改造手術されたんだっけか←ショッカーかよ! つうか、それも遺伝子学的に不可能だから!)、まあ、もしファンタジー的要素をすべてとっぱらって、「論理的」に作劇してたならば、いわゆる「人殺しを何とも思わない、精神的に病んでいる天才犯罪者」みたいな描き方をしたんだろう。

でも、そういうのは、心理的にきめ細かく描ける(そして、細かいところまでちゃんと描かないとボロが出る)映画にはふさわしいけど、等身大の迫力で魅せる「演劇」の場合は、それよりは見た目で恐ろしさを表現できる、今回のような「半人半獣」の人間豹のような描き方の方が、やっぱ良かったのだと思う。



ところで今回の主人公(だよね?)の人間豹。

体はヒョウ柄ではなく、真っ黒の「黒豹」なのであった。

・・・・・すると、恩田乱学こそ、あ、あの“江戸の黒ひょ☆\(−−;)最後に来て、なぜそういつもオチをつけたがる?


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