| 2020年09月16日(水) |
朝顔は「もうじき終わり」と知らせるかのように、こぞって咲いている。赤紫、濃紺、水色。色とりどり。私はせっせと種を採る。その足元に置いたプランターには、薔薇の挿し木やコンボルブルスの挿し木があって、今、みんな小さな小さな新芽を出している。トマトの苗はずいぶん大きく育っている。が、まだ実が実る気配はなく。花だけが次々咲いている。竜胆はこんもり茂って、その茂みのどれもが蕾を湛えており。私はその色合いの美しさにうっとりする。でもそこでうっとりしているとまるでアメリカンブルーがやきもちやいてきそうな気がするので、「君もかわいいよ」と声をかけたりする。 息子は、カマキリの世話に躍起になっている。ソーセージを買ってきてと言うので家にあったものを差し出すと、早速楊枝に挿してカマキリに差し出している。昨日籠に入れていたバッタは食べられたようで。息子が頬を紅潮させながら「すごいんだよ、がっしと鎌を振り上げてね、こうやってね、むしゃむしゃ食べた!」と報告してくれた。 私は、空を見上げる。見えるはずのない南の街に住む友人と、今日そこへ向かってくれているはずの弁護士のことを思う。どうか面談がうまくいきますように。少しでもうまくいきますように。空を見上げるたび、そう祈っていた。 友人は、幼少期、親族から被害を受けた。でも彼女はその間の記憶を四十になるまで忘れ去っていた。四十を越えて、いきなりフラッシュバックしてきたその強烈な記憶に、彼女は夜毎苛まれるようになった。精神はずぶずぶと蝕まれ、バランスを崩し、そんな彼女は他人に牙をむいた。きっと他人という他人がすべて、敵に見えてしまっていたんだろうと思う。そうして彼女の周りからは多くの人がいなくなり、彼女はさらに孤独になった。 そんな彼女に、それでもと寄り添った数少ないひとのひとりが、今回私に打診してきた。そういうことを扱ってくれるいい弁護士はいないか、と。 信頼できる弁護士さんがたったひとり、いた。そうして今日、その弁護士さんが向かってくれている。
夕方遅く、ワンコの散歩をしながら彼女に電話をかける。2コールで出た彼女の声は、とても晴れやかで高揚していた。話せたよ、いっぱい話したよ。これからの方針も決めたよ。ありがとうね。彼女がそう言った。私は、こちらこそ、と返した。電話を切って空を見上げると、もうすっかり夜闇に覆われていて、西の地平線近くだけがぼんやり明るかった。私はそこに向かって手を合わせた。ありがとうございます、と、誰にというわけでもなく、ただ手を合わせた。 もちろんこれで終わりではない。むしろここがスタートであり、すべてはこれから、だ。でも。彼女が、自分からちゃんと弁護士に話ができたということが何よりの成果。今はそれを祝いたい。
明日は新月らしい。見上げた夜空はどんより雲に覆われており。これではもし月があったとしても見えやしないよなあと思う。じっとりと湿った夜。 |
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