| 2021年08月27日(金) |
通院日。まだ朝早いというのにすでに照り付けてくる陽射しに肌をじりじり焼かれながら出掛ける。マスクをしていると呼吸が浅くなってしまう。酸欠になりかけの金魚ってこんな気持ちなんだろうか、とちょっと想像しながら歩く。 カウンセラーから前回出された宿題は、ほとんどできなかった。そのことをまず報告する。家人に触れるというただそれだけの宿題のはずなのに、私がそれを為せたのは回数にしてたったの二回。そのうちの一回は家人から「宿題やってないでしょ」と言われて渋々為したという体たらく。でもカウンセラーが「一回がせいぜいかなと思っていたから、二回できただけでもよかったじゃない」と笑う。そのカウンセラーの対応に虚を突かれ、私はしばし腑抜けになる。 「とにかく触りたくないんです。家人だからとか、そういうんじゃなく、触れるという行為がもうすでに嫌みたいで」 「犬に触るのも?」 「…犬に触るのは平気です。でも、触ってるうちに犬が舐めてくるとやめて!って思う」 「なるほど。自分が触れたことによって自分が望まない反応を返されるのが嫌ってこと?」 「ちょっと違うかも。でも、そうだとも言えるかもしれない」 まだ自分の中でうまくまとまらない。まとまらないまま、居心地悪く椅子に座っていると、お尻のあたりがもぞもぞしてくる。同時に、そういう状態に疲れてしまっている自分もいる。 考えたくない、と、全身が拒絶しているかのような。そんな感じ。 そして、どういう話からそうなったのかを思い出せないのだけれど、実父と家人は私にとって少し似ているという話になる。威圧的なところが似ている、と。 「別にだからって殴られるわけじゃないでしょう?」 「実際に手を出されるのとは違うんです、言葉の暴力に晒されるというか」 「なるほど。それが怖い?」 「怖いです。もうこれ以上何も言われたくなくなってしまう。追いつめられてしまう」 「怖い、という感情が勝ってしまうのねえ」 と、話しているうちに感情が高ぶって勝手に涙が出てきてしまった。そのことに自分が狼狽えてしまう。何をやっているんだろう、本当に。勝手に泣いて、勝手に狼狽えて、自分は一体何をしてるんだろう。 診察では何を話したのかほぼほぼ覚えていない。主治医が「とにかくあなたの薬の量は多すぎるのよねえ、少しずつ減らしていきたいのよ」と言ったことは覚えている。私も減らしたい。
夜、ワンコと散歩していたら、妙な動き方をする車に気づく。さっき私の横を通り過ぎた車なのに、さっきそこを曲がったはずなのに、止まっている、それだけじゃない、別の道に私が進むと、その車も別のルートでその道の反対側にやってくる。車のナンバーを繰り返し口の中で唱え忘れないようにする。怖い。いや犬連れなのだから大丈夫だろ?と思いかけて、いや、うちのワンコはうんともすんとも鳴かない犬だから、何の助けにもなってくれないかもしれない。そう思ったら、もうとんでもなく怖くなって、全速力で駆け出している自分がいた。とにかく車が通れない道を選んで、走って、走って、走って。 気づいたら交番の前にいた。 黒いワンボックスカーは、いつのまにか消えていた。 今更だけれど、自意識過剰なだけだったんじゃないのか、と恥ずかしくもなった。でもそれなら何故、二度も三度も、同じナンバーの同じ車が目の前に現れたんだろう。何だか情けなくて恥ずかしくて、怖くて、同時に自己嫌悪も覚え、ありとあらゆる感情にぐるぐる巻きになってしまう。もう嫌だ。今日なんてとっとと終わってしまえばいいのに。 私が全速力で走り、それに引きずられるように走らされたワンコが、ぜえぜえ言いながら私をじっと見上げて来る。巻き添えにしてごめん。
家人と息子が散らかしたリビングを、彼らが寝静まってから片づける。シンクには洗い物が溜まっている。私は、小さくため息をついた。今日はちょっと、いや、だいぶ、疲れた。 |
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