| 2022年02月10日(木) |
朝ワンコと散歩に出掛けると雨が降り出したところだった。パーカーのフードを被っててこてこ歩く。ワンコはいつも通り私の後ろを歩いてついてくる。ねぇ隣においでよ、とリードを引っ張って隣に位置させるも、すぐ彼は私の後ろに行ってしまう。そうしてちょっと私が引っ張るような形でずっと歩く。 今日の雨は雪に変わるんだと天気予報は言っている。でもこの重たげな雨が雪に変わるのはしばらく先に思えた。私はフードの下から空を見上げながら、雪に変わりますように、と言ってみる。息子とワンコが雪を楽しみにしているのだ。ちょっとくらい降ってくれないと悲しい。 通院日。カウンセラーに呼ばれて部屋に入る。先週主治医から言われた、「PTSDと私」「PTSDの私」についてあれやこれや思うことを伝える。私は、PTSDは私の一部であって全体ではないと思ってここまでやってきたつもりだった。でも、先生から見るとそれは全然十分ではなくて「PTSDの私」を私が生きていると見えるみたいだ、じゃあ私は一体どうしたらいいんだろう、全然分からない、そう思いながら改めて「回復」について考えてみると、まったくもってイメージが湧かない、どうなったら私は回復したと言えるんだろう、想像がつかない、等々。一気に話す。それまで相槌をうちながらただ聴いていたカウンセラーが言う。「PTSDと私、というのと、PTSDの私、が、長く闘病してくる間に近くなりすぎてしまったんじゃないのかしら」。 なるほど、それはあるかもしれない。そう思って振り返れば、PTSDの私、と、PTSDと私の交叉部分が、とても大きい、というか、ほぼほぼ重なってしまっている、と自分でも思えた。「長く生き延びてくると、そうなっちゃうわよね、仕方ないことだと私は思うわ」カウンセラーが続けざまそう言う。 回復についてどう思う?と私が問うと、あなたは?と問われたので、一瞬間を置いてから応える。「昔は、元に戻りたいとか、あの頃のように働きたいとか、あれこれ思っていたんだけど。そうなったら私は回復だと思っていたんだけれど。あったことをなかったことにはできない。つまり、元に戻ることはできないんだ、って思い知ってから、元に戻りたいとかそういう気持ちはすべて諦めて手放してしまった。そうしたら、自分の回復のイメージがつかなくなってしまったような気がする。でも、しょうがなくない?だって、あったことをなかったことにすることだけはできないんだもの。なかったことにだけはしたくないんだもの」。カウンセラーが「そうだよね、なかったことにはできないよね、つまり元に戻ることなんてどうやったって不可能なわけで。でもそこで新しく何か、というのは考えられない?」。 新しく始めたこと。いくつか思い浮かぶ。たとえば写真、たとえば加害者との対話。たとえば…と考えてくると、すべて、PTSDになってしまったことによって生じた事柄だと気づく。気づいて、愕然とする。 ああ、もう、私はまさに、PTSDと私、の領域と、PTSDの私、の領域とが接してるどころじゃなくほぼほぼ重なり合ってしまっているのだ、と。だからこんなにも生きづらいのか、と。そこに思い至る。 主治医の言葉がじんわりと私の中に降りて来る。 でも、じゃあ一体私はどうすればよかったのか。分からない。そこで時間切れになってしまった。また次回ね、とカウンセラーと挨拶を交わし部屋を出る。
Nさんから連絡が入る。小松原本を読み進める中、どうしても連絡とりたくなってしまった、と。「すごい本ですね、これは。記事を書かずにはいられない」「ですよね、そうしてください!ぜひぜひ!」「ところで、小松原さんと直接お会いしたことあるんでしたよね?」「あ、はい、ありますね」「それは加害者との対話を始める前ですか?」「違いますよ。対話を始めてから後ですよ」「え、そうなんですか? じゃ、加害者との対話を始めるのと小松原さんの修復的司法の本が出るのとどっちが先だったんですか?」「対話が先ですねー、私が対話を始めたのを見ていたHさんが、私に、最近こんな本が出てるんですよと教えてくれて知ったんです」等々。延々話す。話しながら、そういえば出版イベントがあることを思い出しNさんに伝える。あっという間に午後が過ぎゆく。
夕方のワンコとの散歩は雪がびゅうびゅう降る中だった。ああようやっと雪になったか、とちょっと嬉しくなった。ワンコは、ぶんぶん尻尾を振って喜んでいる。でも。ちょっと重い雪だな、べたっとしている。おかげであっという間にパーカーがぐしょ濡れになってしまった。寒いな、手が冷たいな、と思いながらそれでも歩き続けていたら、何故か手が温かくなってきており。あれ、冷たくないぞと思いワンコに触れると、ワンコはもうぴょんぴょん跳ねて喜ぶ始末。いやいや、私の手は雪ではないぞ、と苦笑しながら、鼻歌を歌いつつ歩く。 PTSDと私。PTSDの私。ちょっと油断するとこのワードに凹んでしまう。考え込んでしまう。でもきっとすぐには答えは出ない。出せない。 納得できるまで、考えるしか、ない。 |
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