ささやかな日々

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2022年05月11日(水) 
心がざわついている。ホットフラッシュの発作が立て続けに起こる。身体が、心裡のエネルギーを抱えきれていない。バランスが全くとれていない。そんな感じ。
夕方、ワンコと散歩をしている最中、北西の空に天使の階段を見つけた。私が思わず立ち止まって眺めていると、ふだん立ち止まるのを嫌がるワンコなのに、その時は何故かじっと、ただじっと私を待ってくれていた。ありがとね、と声をかけると、くしゃん、とくしゃみをひとつして応えてくれた。

Hちゃんが、中国に行く前に会えるのは今日しかなくて、桜木町で彼女と待ち合わせる。新幹線で飛んできてくれる彼女にただ、感謝しかない。紹介したい後輩がいて、とHちゃんが連れて来たのはYさんという若い美人さんで、今Hちゃんの仕事を引き継ぎしているのだという。三人でテーブルを囲んで、ただひたすら思いつくままおしゃべりに興じる。来月には遅くとも中国に行く、いや、行かされるHちゃんが写真家チェン・ズのことを知りたがっていたのでいい機会と思いざっと調べる。調べながら私は心の中で、心病む前に帰って来るんだよHちゃん、ちゃんとそのタイミングを見極めるんだぞ、と、思っていた。いつだって頑張り過ぎてしまう彼女だから、そしてまた弱音を吐けない彼女だから、そこが本当に心配。Yさんも「仕事なんて辞めてしまえばいい、そういう時は。ちゃんと帰ってきてください」と声にしていた。Hちゃんは「そんなこと言えないしできないよ」と繰り返すばかり。私は私で、そんな彼女をちょっともどかしく思いながら見つめていた。

ワンコの散歩から帰ると、何だか家人と息子の様子がおかしい。どうしたの、と訊いたら「ざっくりだよ、ざっくり、指」と家人が吐き捨てるように言う。どうも何かで指を切ったらしいことは分かった。それで?
家人は舌打ちするばかりで、ちゃんと私に説明をしない。説明しないまま、先日父が息子にプレゼントしてくれた水鉄砲を「捨てろ」と私に言う。さすがに私も黙っているのが嫌になって言い返す。「これは父が息子にプレゼントしてくれたものだけど、何故捨てなくちゃならないの?」。家人は「んなことはどうでもいい。もう限界。捨てて」。
風呂場の扉のアクリルガラスを、家人は割ってしまった。しかもそれは偶然何かの拍子に割れたのではなく、家人が意志を持って割ったのだ。何故?
来週からイタリアに家人は出掛けてしまうから、息子は家人と風呂に入ると言い、それゆえ私がひとりでワンコの散歩に出掛けた。ふたりは揃って風呂場へ。
が、ここでひと悶着起こった。
プレゼントしてもらったばかりの大きな水鉄砲を家人に向けて何度も発射したらしい。家人は何度もやめてと伝えたという。でも息子がきかなくて、我慢の限界で家人は息子の目の前で勢いよく扉のアクリル板を木端微塵にしたそうで。
木端微塵になったアクリル板の破片を何とかつなぎ合わせようと試みるもムダで、私はインターネットでとりあえず修理してくれそうなところを探してみる。
「我慢の限界だからって、ガラス扉壊してたらきりがないよね?」
「壊したことは謝る。でもその前に息子がちゃんと俺の言うことを訊かないからだ」という意味のことを家人は言ってのけた。私はかちんときたので、正直に、「だからって物に当たって物壊しても何の意味もなくね? おねえちゃんの反抗期の時はドア壊したし。壊して何になるの? ほんと、無意味だと思わない?」
「そもそも君が、昼間にワンコとの散歩を済ませておけばよかったんだよ、そうすればこんなことにはならなかった」
「は? それ、アクリルガラスを壊した理由にちっともなってない」
ふだんだったら私は早々に退いて沈黙を選ぶのに、今回は黙ってる気になれなかった。。修理代がいくらかかろうと、直さなければならないのに、金がないとかもったいないとか言い出す彼に、私は正直呆れた。
昔娘の部屋だった部屋の扉はいまだ、家人が蹴って穴をあけたままになっている。でも風呂場は、ドアがなければ入浴もできない。いやそもそも、何故物に当たるんだ? 自分の怒りをぶつける先がなかったからとりあえずパンチをしてみたとでも?
私の頭の中で、娘と息子と、穴の開いたドアと今回の風呂場の扉の穴とが、ぐるぐるぐるぐる廻った。

心がざわついてる。身体が、心裡のエネルギーを抱えきれていない。でもきっと明日になれば私は忘れてしまう。すべてが遠くなってしまう。遥か昔の出来事のようにしか感じられなくなるか、そもそも失ってしまうか。
だからせめて、もう少し味わっておこう、今夜は。


浅岡忍 HOMEMAIL

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