通りがかりに、気になる樹がある。
桜だ。
いわゆるソメイヨシノではなく、 葉と花がほぼ同時に芽吹き・ほころぶ、 花弁がソメイヨシノよりも白っぽい、あの桜。 (ここ数年のお気に入り)
広い敷地を持つ工場らしい土地の 忘れられて枯れがれした一角に その桜がある。
三本ほど並んでいるようだが、 冬に合わせてからからに乾いた蔓性の植物が うっそうとその樹にからんでいて、 かろうじてその隙間からちらりとのぞいた花に気づかなければ、 それが桜だと気づくこともなく春は終わっただろう。
蔓の重みで枝や花はやや垂れさがり、 華やかに爛漫、とは言いがたく申し訳なさげに それでもきちんと咲いている。
それが桜だからといって、 誰ひとりその一角に手を入れなかった、 その心意気が私は好きだと思った。
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すでに桜の美しさはひとり歩きをして、 どこでもほとんど同じような、見たことのある華やかさだけ。
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桜は美しいですが、 夏になれば毛虫もいれば、蚊柱も集う。 景観が良いのか悪いのかは微妙なところ?
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夏も過ぎ、 色づいた葉が落ちるころ、 その桜にはちいさな命がまどろんでいる。 それはある寒く冷え切った朝早くに、 みんないっせいに目を覚ます。
幽かな朝の光に薄い翅を透かし、 ひらひらと音もなく、 あそことこことそこで ふらふらと飛びはじめる。
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