Just A Little Day
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午後のリビング。 西に傾きはじめた陽が、テレビに反射して眩しい。 1月4日。世間は仕事始め。12時過ぎに起きたあたしは、コーヒーを飲みながら洗濯機を回し、食器洗浄機によごれものを入れ、掃除機をかけた。 台所では食器が水音を立てて洗われている。
もう何度も見たビデオを再生し、4杯目のコーヒーを注ぐ。 今や伝説になってしまったバンドの、伝説になったライブが流れる。 戦場に散った兵士が50年後の世界へ恋人を捜しに甦る物語。
足元では犬が、あたしの脚にしがみつき、一心不乱に腰を振っている。
「人も犬も、たいして変わらないな。」
小さな頭のてっぺんを見つめ、そんなことをぼんやり考える。人も犬も、獣だもの。
正月は散々だった。 元旦は彼の実家、2日はあたしの親戚への挨拶まわり。 彼と、あたしと、犬。 皆が遠慮がちに、でも有無を言わさないかんじであたしたちに訊く。
「で、結婚は?」
彼はその度に困った顔をし、あたしが答える。
「ありませんね。」
それ以上訊いてくれるな、という思いを込めて発せられたその言葉に、あたしの親戚は困った顔をした。
去年一年間、あたしが彼に問いつづけたこと。
「ねぇ、あたしと結婚する気、あるの?」
年末に気が付いた。あたしたち、きっと結婚しない。
それにしても、あたしたちは色々と拾いすぎたらしい。 動けなくなるのは厭だ。
正月のあいだじゅう、あたしはあたしじゃないみたいだった。 誰の云う事も、あたしには届いていなかった。 身体中の針を逆立てて、必死に抵抗していた。
「誰も近寄ってこないで」
一人になるのは怖いくせに、あたしは一人になりたがる。
テレビから、ロックスターが唄う。
君は馬鹿じゃない 君は馬鹿じゃない 君は馬鹿じゃない
奇妙に明るい音がして洗濯が終わった。 これを干したら、夕飯を作らなくちゃ。 結局自分が何を考えていたのかなんて忘れて、あたしは家事に戻る。 結局自分が何を書きたかったのかなんて解らぬまま、あたしは「主婦」に戻る。
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