やんの読書日記
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2003年11月05日(水) |
エルフギフト 下 裏切りの剣 |
スーザン・ブライス作 ポプラ社
うりふたつの弟ウルフウィアードと対決し 弟に重傷を負わせたエルフギフトが 選んだ道は、サクソンの神の加護を 失うことの引き換えに 弟を生き返らせることだった。 父王の遺言どおりに次の王として立った エルフギフトは、異母兄のアンウィンと 戦をしなければならなくなる。 アンウィンの妻と子どもを殺さずに 助ける場面、ウルフウィアード の看護をする場面などでエルフの子としての 癒しの力を発揮するのだけど、 自愛に満ちたとはいえない態度だ。 この巻ではアンウィンの息子ゴッドウィンの憎しみがあらわになっている。 父を追放したエルフギフトへの憎しみ、 キリスト教を捨てて サクソンの神への信仰に戻ってしまった 母への恨みがなまなましく描かれている。 サクソンの多神教がキリスト教に 追われようとしている時代背景も 書かれていて興味深いのだが、 ケルトのサムハインの祭りが キリスト教ではハロウィン、 サクソンではイングの祝日と重なっている。 この日がアンウィンのキリスト教軍と エルフギフトのサクソン軍の休戦の日に なるのだが悪者のアンウィンは 停戦協定を破ってエルフギフトを 殺してしまう。 殺し方のすさまじさは、クーフーリンの最期など問題外のすごさだった。 「血染めのワシを刻む」と称して、 生身の人間を斧でずたずたにするという 処刑の仕方だ。 サクソンのやり方でエルフギフトを殺した アンウィンもさすがに同盟者の信頼を失う。 そしてサクソンの筆頭神オーディンが 化身した竪琴ひきの男ウドゥによって 復活したエルフギフトに、最後に 殺されてしまう。 エルフギフトの復活のシーンがまた ものすごく恐ろしい。 死者を呼び起こし戦士として動かす というところなど ケルトの黒い大釜を思い出させる。 悪者は滅んだのに、サクソンの平和は 訪れないというのが筋のようだ。 このあとで運命によって死期を定められた エルフギフトが永遠に消え去るらしい。 裏切り、復讐、死、悪、狂気 いろいろな言葉を使っても言い表せない 恐ろしい世界、人がどこかに持っているもの それを表に出さないでいるうちは平和だ。 私たちが生きている現代がこういう時代に 移行していくような気がしてならないのだが そんなことをほかの読者は考えるだろうか。
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