Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?それまでこれから


2002年09月22日(日) 心をゆらして

なんとはなしにドラえもんの映画が観たくなったので借りてきてしまった。どの作品にするかだいぶ迷ったけど、ここはドラ映画ファンの中でも最高傑作の誉れ高い「魔界大冒険」を選択した。
この作品、今までに何遍も見ているのだけれど改めて見直しても「面白い!」って思えるから凄い。まずをもって伏線の張り方が秀逸。そしてそれがラストに向けて収束してゆくさまがお見事。初期のドラ映画によくみられる「怖さの描写」も冴え渡っていて、涙を流すドラえもんやのび太の石像やメデュ一サのおどろおどろしさは特筆ものだ。一度映画が終わったと見せかけるフェイントも面白くスタッフもノリにノッて製作している感じが見て取れる。
魔界大冒険に限らず80年代のドラ映画は無敵レベルに面白い作品が多い。話のアラを探そうと思えばいくらでも出てくるのだがそんな弱点など吹き飛ばしてくれるほど他の魅力であふれているのだ。人によって多少の差異はあるもののドラ映画の最盛期は大体この時期だというのが大方の見解である。私自身、90年代以降の作品は自分の年齢が上がってきたことも手伝ってほとんど観ていない。

そんなことを考えていたらドラ映画についてあれこれ語りたくなってしまった。思いつくままに個人的にベストの5作を挙げてみたい。

1位「のび太と鉄人兵団」
何を隠そうこの作品こそが私がはじめて劇場で観たドラえもん映画である。やはり原体験は強烈で大画面のスクリーンに映し出された迫力あるシーンの数々は今でも強く記憶に焼きついている。もちろんこれだけの理由で1位に推したわけではない。とても魅力的なキャラクターであるリルルやザンダクロスの登場(ゲストキャラが当初敵方なのも珍しい)、兵団とのメカ戦の高揚感、鏡面世界のリアリティーある描写、その他その他、いくらでも挙げることが出来る。なによりロボットの、そして人間のあるべき姿を求めて消えてゆくリルルの姿がはかなく印象に残る。ラストに救いがあるのもいい。作品のハードさを予感させる、「鉄人兵団」という古めかしくも重厚感漂うタイトルも好き。

2位「のび太の魔界大冒険」
先のところで語り尽くしてしまったのでひとつだけ。のび太と美夜子の友情とも愛情とも取れる心の交流が清々しい。2人の別れは寂しいながらも爽やかな余韻を残すことになった。美夜子は印象深いゲストキャラとしてリルルと双璧をなす。

3位「のび太の宇宙開拓使」
名曲「心をゆらして」をBGMに描かれる別れのシーンが出色の出来。くっいていたのび太の部屋とコーヤコーヤ星がだんだん離れてゆく中でそれぞれがお互いから学んだ文化を披露しあう様は異文化交流のひとつの理想的な姿を表していてとても心に残る。現実の地球でもこのように異文化と接することが出来たらなあと思ってしまう。

4位「のび太の恐竜」
歴史的誕生というだけでも意義深い作品。まだストーリーはレギュラー放送の延長という感じであかぬけていないが冒険色がかなり強くハラハラドキドキさせてくれる。そして、やっぱり挙げなければいけないのはピー助との別れのシーンである。ただただ別離のつらさを登場人物に涙させることで描写するのはいささか感傷的ではある。しかしそれを差し引いてものび太のピー助を思いやる気持ち(ラストまで丁寧に描かれている)の美しさをには心を打たれてしまう。

5位「のび太の日本誕生」
「10周年記念」と銘打たれ、大々的なキャンペーンが行われた作品。全編に渡っていかにも大作っぽい演出(引きの多用など)が施されており、それだけでもわくわくさせてくれる。適役のギガゾンビはその容貌の怖さもあいまって存在感が抜群。

大体こんな感じであろうか。とは言えドラ映画は観る度に印象や感想が変わる不思議な作品である。今日と明日とでは映画の評価が変わるかもしれない。観る側の主体的な体験や価値観の変化によって評価はいかようにも逆転する。それほどこのシリーズ映画は味わい深い。優れた作品は多面的な解釈に耐えうる強靭な体力を持っている。だから何遍でも観ようという気持ちが湧くのだ。これは寅さん映画にもあてはまることである。
私はこれからも何年かのサイクルでドラ映画を観続けることになるだろう。こんな懐の深い作品に出会えた私はなんとも幸福者ということになる。藤子氏をはじめとしたスタッフ諸氏に敬意を払ってこの項の結びとしたい。


橋本繁久

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