Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?それまでこれから


2002年09月27日(金) アニメ思い出館 第3回 「パーマン」 の巻

さてさて、アニメ思い出シリーズ第3弾です。今回は藤子不二雄アニメのなかで私が一番好きな「パーマン」を取り上げたいと思います。因みに私が書くのは83年・シンエイ動画版のほうであって白黒版のことではないのでご容赦を。では、早速いってみましょう。

簡単あらすじ
須羽みつ夫は特技「何もなし」のさえない小学生。しかしある日突然やってきた異星人バードマンによってパーマン1号に選ばれてしまった!マスク、マント、そしてバッジをつければあっという間に力は6600倍、時速119キロで自在に空を飛び回る正義のヒーロー誕生!・・・のはずなんだけど、どこかどじででおっちょこちょいなパーマン。チンパンジーの2号・ブービー、正体不明の少女3号・パ−子、関西人の切れ者4号・パーやんとともに日夜事件に立ち向かうのだ!

個人的解説
「ドラえもん」の大ヒットによって80年以降、様々な藤子漫画がアニメ化されることになった。「パーマン」もその波に乗って、ご多分に漏れず2度目のアニメ化を果たすことになる。この「パーマン」、他の藤子アニメとは少々毛色の違う雰囲気を持っている。これは本放送当時まだ3〜4歳であった私でも感じることが出来た。どことなくライトでポップな匂いを感じる。それこそ80年代的なアニメだと言うことも出来るのだが、他の藤子アニメが落ち着いた雰囲気をもっている中で「パーマン」は確かな異彩を放っていた。
これは何故なのか、と長年疑問に思い続けてきたのだが、最近作品のスタッフを確認して2人の人物にその理由を見出すことが出来た。一つ目は音楽がたかしまあきひこである、ということ。藤子アニメというと音楽は菊地俊輔が手掛けることが多かったのだが(ドラえもんをはじめとして忍者ハットリくんやキテレツ大百科も担当している)、明確な違いを出すためか「パーマン」ではたかしま氏が受け持っている。たかしま氏は「8時だヨ!全員集合」などドリフの番組に多くの楽曲を提供しているだけあって素直にノリのいい曲を書かせたら天下逸品である。この人選が功を奏し作品の底辺を軽く、弾んだものにすることに成功している。(決して菊地俊輔が悪いと言っている訳ではない。作品の毛色を考えるとたかしま氏が適任であったというだけである。因みに聴者に強烈なインパクトを与えた「Dr.スランプ アラレちゃん」の主題歌「ワイワイワールド」は 菊地俊輔作曲・たかしまあきひこ編曲という布陣である。)あと、これは音楽に関係のない話であるがバッヂが鳴る時の効果音が個人的に大のお気に入りである。あの擬音では説明不能の音はいかにも地球外のテクノロジーによって作られたアイテムである、という説得力を付与することに成功している。
閑話休題。作品の雰囲気を軽妙なものにしたもうひとつの理由は総監督が笹川ひろしであるということである。ご存じない方のために注釈しておくと、この笹川氏はタイムボカンシリーズの監督でもあるのだ。つまり無類のギャグの名手であり、演出の「間」の取り方において天才的な勘を持った人間がスタッフの1人として参加していたのだ。これでは面白くないわけがない。「パーマン」の登場人物がずっこける時「へコ!」と言うが、この軽妙さこそ笹川氏の真骨頂ではないだろうか(「へコ!」を考えたのがっ笹川氏本人なのかは知らないのだが)。同じ笹川氏が担当した「忍者ハットリくん」でもずっこけるときに「ズコ!」というギャグを使っていたが、「ズコ!」は言ったあと少々重苦しい感じがするのに対して、「へコ!」はなんとも軽やかで小気味良い印象を与える。「へコ」は「ズコ」の改良版でありプッシュ・アップのギャグと言えるのである。

しかしこれだけではない。「パーマン」がその他の藤子作品と違った雰囲気を持つにはもうひとつ重大な理由があった。「パーマン」が再アニメ化された83年という時期は、「うる星やつら」を筆頭とする、どたばたラブコメアニメが隆盛を極めていた。その流れに乗って図ったか図らなかったかは定かではないが「パーマン」もその要素を取り入れることになる。とにかく登場人物の恋愛関係が極めて複雑なのだ。まず、みつ夫はクラスメートのみち子に惚れているがみち子はパーマン1号まっしぐらである。もちろんみち子は1号の正体がみつ夫だと知らないからみつ夫は大変歯がゆい思いをしている。そんなみつ夫を密かに思い偲んでいるのがパー子ことアイドル・星野スミレである。みつおは星野スミレの熱狂的ファンであるが、しかしパー子の正体がよもやスミレであることを知らない。マスクを通して見るスミレをみつ夫は当初ただのお転婆でヒステリーな娘、ぐらいにしか考えていない。しかし時が経つにつれ、二人の仲はまんざらでもないものになってくる。作品の趣きも徐々に変わり始め、アニメの後半は1号とパー子の痴話げんか的ギャグの応酬、といったパターンが多くなる。事実上の最終回はパー子がみつ夫に好意を寄せていることを暗に認め、それを逆手に取ったギャグを描いて終わる。
またこの二人を軸にして、その他の人物も恋に恋することになる。ブービーはアラスカ在住のビリコに熱を上げているし、パーやんはみち子にべたぼれしている。カバオは文通相手に憧憬を感じている。「ドラえもん」ではせいぜいのび太としずかのロマンスがある程度であることと比べれば、「パーマン」の恋愛のウェートがいかに高いかが分かるだろう。対象年齢が極めて低いはずなのに恋愛物語に強く傾いてしまったのである。とは言え、ラブコメ路線を主流には決して置いてはいないのはさすがである。数々の色恋エピソードをあくまでさらりと処理し、その結果かえって新鮮な印象を残すことになるのである。

キャスト
主人公・須羽みつ夫役は白黒版と同じく三輪勝恵が務めた。数ある藤子作品の中でも旧作版とリメイク版の主人公をを共にこなしたのは彼女だけである。どこか軽く、ひねくれた面も持っているみつ夫を伸びやかに演じていた。彼女の「へコ」は絶品である。
ブービーの大竹宏もまた、白黒時代からの連続登板。一言も人間の言葉を喋らずに(いや、正確にはパー子に向かって「ブス」と言っているような描写もあるのだが)あそこまで表現できたのは凄い。実は「パーマン」の登場キャラクターの中で私はブービーが一番好きなのである。パー子役には「ルパン3世」の峰不二子で有名な増山江威子が演じた。パー子の声を聴いただけではとても不二子の色香溢れる声を想像できない。とてもお転婆で、かつ可愛らしい声を演じきった。パーやんには声優界の大御所の1人にして、藤子アニメの常連である肝付兼太が演じて安定感を醸し出すし、他にもカバオ・サブの掛け合い漫才のごときを演じた鈴木清信と千葉繁のコンビも面白く、あるいはみち子の三浦雅子もぶりっ子声も上手かった。だが、この作品において1番の役得と言うか、もうけ役だったのはバードマンの安原義人ではないだろうか。この人の軽さ、軽妙さは秀逸である。同時期に「キャッツ・アイ」で主人公・瞳の恋人、俊夫役も演じていたがどこかバードマンに通じるものがある。ドジでたよりないけどやさしい男を演じたら日本一と個人的に思っている。

「パーマン」は良作ぞろいの藤子アニメにおいてポップなセンスを前面に押し出した点で強く記憶に残ることになった。そして円熟の域に入っていた藤子アニメの黄金期の幕開けを鮮烈に表明する役を果たした作品ともいえるだろう。<第3回 終わり>


橋本繁久

My追加