Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?|それまで|これから
2002年11月08日(金) |
”この人の声に酔いたい” Vol.7 鈴置洋孝 |
概論 鈴置洋孝(すずおき・ひろたか)代表作:「無敵鋼人ダイターン3」破嵐万丈、「機動戦士ガンダムシリーズ」ブライト・ノア、「戦国魔神ゴーショーグン」北条真吾、他多数。現在、ダンディ・ボイスの第一人者といったら彼であろう。低めの甘い声を緩急自在に操ることでクールでストイックな役とキザでナンパな役の両方を演じることができる。前者の代表がブライト艦長であり、後者には破嵐万丈が挙げられる(ただし万丈についてはその胸に秘めた熱き激情までしっかり表現している)。近年は洋画の吹き替えでも大活躍。
独断のプレビュー だぁ〜はっはっは、とうとうこの人を取り上げる日がきたぜ!何を隠そう、美形キャラ男声優の中で私が恣意的に一番好きなのが鈴置さんなのである。とにかくカッコいい。声質そのものも、演技も。「男」として、すっごい魅力があると思うんですよ。ああ、何から書こうかな、はやる気持ちを抑えつつ順に追っていってみよう。
まずは鈴置さんの初主演作「ダイターン3」から。もうね、私はこの作品一本に鈴置さんの魅力の全てが詰まっていると思うのね。いや、今一度考えてみて「全て」と言い切ってしまうのは語弊があるかもしれないから(鈴置さんの作品全部を見ているわけじゃないし)、8割くらいということにしておこう。主人公の万丈は普段は軽妙で、洒落ていて いかにも軟派って感じなんだけど、ことメガノイドに関わる時は熱い、アツイ。ちょっと狂気が入っているんじゃないかと思うくらい気性が激しいんです。それに、父親を憎む姿とか亡き母を思うときの弱さなんかを見ていると、これは単なる正義漢じゃないんだなって感じがします。スーパーヒーローの強さと、優しさと、そしてヒーローだからこその脆さが滲んで見えて、これはもう一人の立派な人間として成立してるんだよね。「生々しい人間を描く」ってのは本作品の監督・富野氏の十八番なんだけど、そういう話を作るには多面的なキャラクターを捻り出さなきゃいけないわけで、かかる人物を演じるのは役者としては大変難しいことだと思う。しかし鈴置さんはこの要請に見事に応えた。それどころか、彼の熱演は「万丈」という男をより一層の魅力に溢れたキャラクターに仕立て上げちゃった。これは本当に稀有な例だと思います。塩沢さんのブンドルとか、八奈見さんのボヤッキーとか、小山さんのアラレちゃんと同じぐらい、奇跡的な廻り合わせ。この役を演じられるのはこの人しかいない!という絶対感。滅多にないですね、こういうことは。
「ダイターン」の次は「ガンダム」。この流れはスムーズでしたね。なにしろ後番組ですから。富野さんも鈴置さんの声が気に入ったということでしょうか。でも、ガンダム見ていて鈴置さんを強く意識するということはなかったなあ。これは役柄のせいもあるんですけど、多分に感じるのは自分の居場所をちゃんと作っているなということです。役者の演技って独り善がりではダメなんですよね。「俺はいい演技をした、だから後は知らん」じゃ困るわけです。全体を見渡して、自分はどういう役なのか、でしゃばっていけば良いのか悪いのか、的確に読み取らなきゃいけない。要するに音楽で言うところのアンサンブルの調和に目を配ることが必要なんです。評価の高い作品は役者のアンサンブルが絶妙なのです。そうやって考えてみると、ブライトは言葉が悪いかもしれないけど他のキャラクターの引き立て役だったと思うんです。それは決して目立たないということではなく、ブライトに透かして見ることで他のキャラクターの魅力が増してくる、ブライトと絡ませて初めてWBの連中が生きてくる―つまりクリスタルみたいなものだとおもうんです。これは大事な役ですよ。ひょっとしたら主人公よりも重要かもしれない。この作品は強烈な個性をもったキャラクターが沢山出てきますけど、振り返ってみると表向きの主役はアムロで、真の主役はシャアで、影の主役はブライトだったんだなあとしみじみ感じ入っています。
「逆転!イッパツマン」のナレーターも良かった。富山さんとは違った魅力があった。考えてみるとこの手の声はナレーションに向いていない気もするんです。本来は。でも、前にも少し書きましたけど、ナレーションがナレーション以上の脚光を浴びるのはナレーターの個性が作品とがっちり合わさってもう一歩上の段階にステップする時だと思うんです。そんな境地に達するにはナレ−ションの中に”何か”が加わってなければならない。だから、鈴置さんはその何かを持っていたということになりますね。素晴らしいです。
時代はぐっと下って、今度は「DRAGON BALL」の天津飯となります。これ、多分私が初めて鈴置さんの名前を意識した作品です。「DRAGON BALL」は声優が無茶苦茶豪華ですよね。大御所・ベテランから脂の乗り切った中堅まで新旧織り交ぜて見事でした。今じゃあんなキャストは到底期待出来ませんね。物故された方もいらっしゃるし。 閑話休題。天津飯はクール&ストイックの王道を行くキャラで、まさに鈴置さんにうってつけでした。悪になりきれない悪で、至極不器用な生き様が本当にシブかった。しかしあの声で「排球拳、いっくわよ〜!!」「はぁ〜い!!!」とか言われたらぶったまげますね。あまりにも落差が激しすぎる・・・私は大笑いしていましたけど(こういうところにトリさんのセンスを感じます)。
「ゴーショーグン」の真吾は典型的な熱血キャラでしたけど、決して紋切り型に収まろうとしなかったのが良かったです(『典型的』なのに『紋切り型ではない』というのは矛盾しておりますが)。他の登場人物同様凄く洒落ていました。「聖闘士星矢」の柴龍は天津飯よりももっと無骨なストイックさが抜群でした。「キャプテン翼」の日向も小学生とは思えないほどシブイキャラでした。「マクロス」のリン・カイフンは嫌な奴でしたね。鈴置さんはイヤミキャラも上手いんですよ。この間観に行った映画「千年女優」でもそれ系の役をやっていたけどすっごい決まっていました。結局、名優ってのは何をやらせても上手いってことでしょうね。
洋画ではトム・クルーズやメル・ギブソンの吹き替えが有名でしょうか。やっぱりカッコいい人が似合うよね。でも、洋画でもちょっと崩れた感じの男を演じる鈴置さんも見てみたい気もする。この系統はあんまり演ってないんだよね。絶対上手く行くと思うんだけどなあ。関係者の方々、もしこれを読んでいたら(誰も読んでいないが)ひとつ宜しくたのんます。
とにかく魅力いっぱいの鈴置さん。これからの活躍にも大いに期待しています(と言っても最近のアニメは見ないけど)。どういうわけか今回の文章が口語文法・ですます調になったことに疑問を感じつつ、次回へとひつこく続きます。
橋本繁久
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