Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?|それまで|これから
2002年11月10日(日) |
”この人の声に酔いたい” Vol.9 塩沢兼人 |
概論 塩沢兼人(しおざわ・かねと)代表作:「戦国魔神ゴーショーグン」レオナルド・メディチ・ブンドル、「銀河旋風ブライガー」ブラスター・キッド(木戸丈太郎)、「究極超人あ〜る」R・田中一郎、他多数。浮世離れした声をお持ちの方である。クールと言うより耽美、軟派と言うより甘美、要するに超現実的なお声なのである。「ガンダム」のマ=クベあたりからぽつぽつ人気はあっただろうが、この人が完璧にキャラを確立したのは間違いなくブンドルであろう。ブンドルの登場によってアニメキャラ界には「耽美系美形男」という新たなるパターンが追加されることになった。しかも、それらブンドルの流れを汲むエピゴーネンのほとんどを塩沢さん自身が演じているのだから驚嘆ものである。とすると、この人は声そのものがジャンルの一派なのか。とは言っても決して演技の幅が狭いわけではない。その辺の詳細は「独断のプレビュー」に書く事にする。尚、大変残念なことだが2000年に亡くなられている。
独断のプレビュー 私はこの日記で幾度となく「塩沢ブンドル礼賛」を言い続けてきたが、何もブンドルだけが塩沢さんの代表作ではない。よく考えてみると、私は塩沢=ブンドルをあまりに口やかましく言い過ぎてしまって、結果的に塩沢さんの評価を矮小化させてしまっているのではないだろうか、という疑念が沸いてきた。塩沢さんの演技の本質が最終的にはブンドルに帰結してゆくのは正しいとしても、それを強く主張して塩沢さんに固定イメージをつけてしまっていたのなら、塩沢さんに対して失礼極まりない。この場でお詫びするとともに、ブンドル以外の塩沢さんについても分かる限り触れてみたいと思う。
私がはじめて塩沢さんの声を意識したのは「はーい!アッコでーす」である。この作品、結構長いこと放送していたと思うのだが意外と知名度が低い。何でだろ?まあ、それはおいて置くとして、塩沢さんが演じていたのは主人公であるアッコの夫・ジュンちゃんである。すっごい爽やかな声で、後年私が知ることになる塩沢さんのメイン・イメージとはかなりかけ離れている。放送終了から10年以上経つと思うのだが、私は未だに塩沢さんの「おーい、アッコ!」というセリフが耳に焼きついてはなれない。
「ガンダム」のマ・クベは気持ちの悪いキャラクターであった。狡猾でぬるっとした嫌らしさを持ち、悪と言っても単純悪というよりは物語の構成上、必要悪に廻ってしまった男、といった感じ。非常に視聴者に気持ち悪かったが、それを計算して演じていたはずなので塩沢さんとしても本望であろう。
「宇宙戦士バルディオス」では主人公のマリン・レイガンを演じていた。おそらく初めて主役を張った作品だと思われる。マリンは他星系(と最初は思われていた)から地球にやってきて、同郷人と地球人の間で様々に葛藤する青年であるが、塩沢さんはこのマリンをまさしく熱演!”自らの境遇に苦悩しながらも、基本的には実直で情熱的な青年”としての人情の機敏を的確に捉えていたと思う。
「銀河旋風ブライガー」を始めとするJ9シリーズでも全て主役を担当。私はキッドしかしらないのだが、このキッドは塩沢さんの役にしては珍しく陽性度がかなり高い。だが、こちらの方も寸分のすきもない見事な名演技!「イェ〜イ」などという軽い演技も塩沢さんはできるのだ。
「奇面組」では物星大。出ました!変体オカマ男(笑)。濃い、濃すぎる!でも面白いからいい。しかしようこんな番組やったもんだよ。他のCVも千葉繁とか玄田徹章とか濃い人ばっかり。主題歌はおにゃん子だし。分けのわからない世界だなあ。 「未来警察ウラシマン」ではもろにブンドルライクなキャラクター・ルードリッヒを演じていた。「悪の美学」とか、極めて真面目なんだけど、どっかずれているところが面白かった。
近年の代表作は「クレヨンしんちゃん」のぶりぶりざえもんだろうか。塩沢さん独特の声を逆手にとって下簸たキャラクターとのミスマッチを意図したのだろう。狙う方向としては山本正之が美形キャラを担当して何とも言えぬ脱力感を出したのとちょうど逆ベクトルである。確かに、あの顔にあの声では脱力してしまう。
上であれこれ理屈を捏ねていたけどやっぱりイメージが絶大なのがブンドルであるのはまごうことなき事実である。これは掛け値なしに塩沢さんの個性と役の個性が一致してしまった奇特な例である。「美しい・・・」という一言だけで声優とアニメの中の肖像画との垣根は取り払われ、キャラクターが一人の人間として動き出す。「ゴーショーグン」は登場キャラクター全員が魅力的であったが、そのなかでも一番キャラが立っていたのは間違いなくブンドルなのである。おそらく塩沢さんがこの役を担当していなかったらブンドルの魅力は本来の半分にも満たなかっただろう。このハマリ具合は尋常なものではない。空前であり、絶後である、といっても良いかもしれない。
そんな塩沢さんのライブな声を聞けなくなって久しい。これぼど強烈な個性をもちつつも、様々な役柄をこなした人は多分いないだろう。46歳での物故はいくらなんでも早すぎる。もっともっとその声を聞かせて欲しかった。悔しい。
橋本繁久
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