Shigehisa Hashimoto の偏見日記
塵も積もれば・・・かな?それまでこれから


2004年01月23日(金) 「ヒット」をねらえ!

人間は予測もつかないような事態に遭遇すると、往々にして困惑してしまう事が多い。私にもそういう経験が何回かあった。例えば、柔道のヤワラちゃんがTV番組で自分が腰に巻いていた帯を抜いて「これが私のナマ帯です」と言い放った時。あるいは、明らかにオジン顔の野口五郎が「芸能人はなぜ老けない」というタイトルの本を出しているのを見かけた時。または89年の日本シリーズでいきなり三連勝した近鉄が、よせばいいのに「巨人て大した事ないですね」 と軽口をたたいたせいでジャイアンツナインを発奮させてしまい、結果的に逆転四連敗でみすみす日本一を奪われた時。
今回もまさに同じ心境だった。馬鹿にするつもりで観たドラマ版「エースをねらえ!」が意外に面白かったのである。

出崎統が監督を務めたアニメ版はスポーツ王道漫画をなぞった古典的な作品で、これに感銘を受けた庵野秀明がテーマ・構成を模倣して「トップをねらえ!」というパロディを作ってしまったほど出来のいいものである。ここまで評価が定まっている作品だから、その世界観を少しでも傷つけてしまうことになるドラマ化はどう考えても成功しないと思っていた。アニメ版の登場人物はみな非現実的な風貌で(アニメなんだから全く問題ないのだが)、これを実写で再現するのは困難だ。言動もいささか古めかしい。第一、今日日スポーツものは流行らないだろうという心積もりもあった。だから「どうせだめだろう」という気持ちで先週の第一回を見た。

しかし、期待(?)は概ね裏切られた。意外としっかりしたつくりになっているのである。まず、キャストのほとんどが役にきっちりなじんでいるのが良い。主役の上戸は決して達者ではないが、容貌が岡にそっくりなので比較的問題なく見られる。コーチは去年の暮れにココリコ田中が物まねでやっていたのがあまりにも似ていたので、今回の内野という人は貧乏くじをひいたと思っていたのだが、なかなかどうして確かに宗方の雰囲気を持っている。竜崎麗香役の人は流石に迫力に欠けるが、声色の作り方、発声方法に気品が感じられ、そういうところはしっかり「お蝶夫人」である。このように百点満点の配役はないのだが、それでも原作に対する忠実度は結構高く、まずは最低限のハードルを越えていると言えよう。

そして二つ目の理由は演出のテンポのよさである。もともとオリジナルの粗筋は優れているのだから、あとは監督の腕次第と言ったところだが、今のところこれも快調だ。無駄なところはバッサリと落とし、力点を掛けるべきところはちゃんと掛けてある。ストーリーを圧縮してその分猥雑物を省き、全体的にスタイリッシュに展開してゆく手法はとても見ごたえがあると言える。ロングショットの場面で早送りを多用するのは出来れば辞めてもらいたいのだが、それ以外は特に不満がない。個人的に特に嬉しかったのは、アニメ版の特色であった、ひろみとマキの屈託のない会話がかなりそれらしく再現されている点である。あの天真爛漫なやりとりこそ、「エース」の核を支えているものだと私は考えているので、その点をきちんと踏まえているこの作品の演出家はとても優れていると思う。私がこのドラマ版を好ましく思うのは、この点の評価が大きい。

ただ、不満点、改善すべき点も沢山ある。一番まずいのはOPの歌が下手過ぎること。聴いた人なら分かると思うが、いくらなんでもあれは酷い。オリジナルの大杉久美子があまりにも素晴らしすぎるという理由もあるのだが、それを差し引いても、もっと上手い人はいなかったのかという疑念がどうしても浮かんでしまう。また、テニスを題材にしたドラマだと言うのに、出演陣が押並べてテニスが上手くないというのも問題である。ボールをCG処理して何とかごまかしてはいるが、フォームの稚拙さは如何ともしがたい。曲がりなりにもテニスプレイヤーの頂点を目指すドラマだと言うのに、これでは真実味に欠ける。他にも、ひろみの両親の設定に違和感がある、尾崎役の人の芝居が気になる、宗方コーチの室内着は何とかならんのか、等々細かい点を挙げたらキリがない。こういうところはやはり常に原作と比べられるドラマ版の弱点である。

とは言うものの、全体的に観れば欠点を押しのけるほどに魅力のある作品なので、これ以上、文句を並べ立てるのは野暮であろう。ドラマを全く見ない私でも引きつけられるのだから、面白い作品である事は間違いないのだ。スタッフ・キャストのさらなる飛躍を望みたいところである。これからの展開に大いに期待。


橋本繁久

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