Espressoを飲みながら

2002年03月22日(金) 湿気

 今日は一日中家に居ました。晴れてたら自転車に乗ってでかけていたかもしれないし、彼女と花見に行ってたかもしれませんが。

今後の生活のこと、仕事のこと、そんなことを家で彼女と話し合っていました。

外では雨がしとしとと降り続けています。生暖かな春の雨は、ぴちぴちと
アスファルトにはねかえり、坂を下って溝へと流れ込んで行きます。
そして大地の奥へ奥へと染み込んでいき、土壌や植物に吸収され、いつか
また大地の表へあらわれ、蒸発して空にのぼり、再び雨として降るのでしょう。

私が今日聞いていた雨粒は、いつかどこかで聞いた雨粒のようでした。
その音には、暖かさと哀しさが含まれています。昨日が彼岸だったからでしょうか。

 そんな日には尚更のこと、かつて自分が訪れた、大好きだった乾いた空気の都市のことを思い出します。
LA、Sedona、Pune(3月の)、Madrid、Sevilla、Cordova、Costa del Sol...
そしてAlcala' de Henales。

 ちょうど煎餅やポテトチップスの容器に蓋をするのを忘れると
ぐにゅぐにゅに湿気を帯びて駄目になってしまうように、
自分もこの日本の神戸という湿気た街に長居をしすぎるうちに
人間が湿気てすこしローでブルーになってしまった気がします。

 雨は土に素直に帰れる分、余程ましな存在なのですが。
人間の方はなかなか今日、明日に土に帰るわけにもいきません。

 かつて1人のユダヤ人がラビ(ユダヤ教の聖職者)のもとを訪れました。

「なあラビ様、あっしは金に困ってるんです。何か良い商売ないですかねえ。」

ラビは答えました。「パン屋はどうだろうかね。人は生きるためにパンが
必要なんだから、きっと繁盛するだろうよ。

 3ヶ月して再び男はラビのところにやってきました。

「ラビ様、あっしはラビ様の言う通り、パン屋をはじめてみたがちっとも
客が入りゃあしねえ。この商売はさっぱりですだ。どうしましょう。」

ラビは答えて曰く、「じゃあ棺桶屋をやったらどうだい。人は死ねば必ず
棺桶が必要になるんだからさ。」

 それから3ヶ月して、再び男はラビのところにやってきました。

「ラビ様、棺桶屋もさっぱり儲かりませんぜ。飯の食い上げでさあ。でも
これはどうしたことなんでしょう。みんな生きてるのにパン屋に来ないし、
みんないつかは死ぬのに棺桶屋も儲からねえ。」

 ラビは少しの間黙っていましたが、男の方に向き直って言いました。

「見たまえ。人々は生きることも死ぬこともできずに、ただ生を引きずって
苦しんでいるのだ。」



 
  

 

 


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