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2002年06月08日(土) 山崎豊子『華麗なる一族』

「読み日記」のジャンルは本来、「本や日記に思う事」について書くところである。
なので、読書感想文も書かねば…と思いつつも、最近まとまった読書をしていない。
そこで、再読で申し訳ないが山崎豊子の『華麗なる一族』(新潮文庫)について簡単に。

都市銀行第10位の阪神銀行のオーナー頭取・万俵大介が金融界再編の動向を先取りし、
「小が大を食う」合併を企て、成功させるまでの物語である。
万俵はバイタリティ溢れる人物、
しかし私生活では妻妾同居を営む暗い面も持ち合わせている。
更に、長男であり、万俵コンツェルンの中核企業である阪神特殊鋼の専務を務める鉄平が
亡父と妻の間に出来た「不義の子」ではないかという疑念に苛まれている。
このふたつの事が物語全体に影を落していく。
万俵は合併の相手に都市銀行第8位の大同銀行に目をつける。
そして、頭取の三雲が鉄平の親友である事から、
阪神特殊鋼をトリックに使う詭計を思いつき、それを成功させる。
が、しかしその事が意外な結末に結びついて行く事に・・・。

というわけで、単なる企業小説ではなく、人間ドラマを描いた山崎豊子の筆力に圧倒させられる力作だ。

一読すればすぐにピンと来るように、阪神銀行は神戸銀行、大同銀行は太陽銀行、
そして合併後の東洋銀行はかつての太陽神戸銀行をモデルにしている。
また、三白眼の大蔵大臣・永田は福田赳夫、党人派の実力政治家・大川一郎は河野一郎等々、
昭和40年代の政財界をモデルに配して、楽屋落ち的な楽しみも出来る。
(ちなみに後に山本薩夫が映画化し、万俵を佐分利信が主演している)。

戦後第二の金融業界再編が加速した現在、今日的な問題としても再読に耐える作品だろう。


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